日本のドラマの主人公は「うぶ」「奥手」が鉄板だけど… 杉咲花主演『冬のなんかさ、春のなんかね』が“一味違う”ワケ

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 日本のドラマの主人公は基本的に「うぶ」で「おくて」で「恋愛下手」が多い。恋愛遍歴や交友関係は浅く狭く描かれるのが因習のようだ。恋多き人物は脇に追いやられるか、完全に色物扱い。特に女は。それなりにそこそこ経験した女をさげすむ社会は幼稚で、病理の根は深い。

 なので、このドラマは新しいというか珍しい。いや、今頃というか、ようやくというか。ヒロインの恋愛遍歴を徐々にたどっていく「冬のなんかさ、春のなんかね」である。映像の単調さやヒロインの思わせぶりな言動など、いろいろな面で賛否両論の否の声が大きいようだが、私は賛の声を上げたい。だって面白いじゃんか、人の恋愛遍歴って。後悔とかざんげとか未練とか呪詛とか、人間の営みのアクとえぐみが詰まっているからな。先日も友人の元彼の話で盛り上がった。股間を蹴られたがる男で、あれは恋ではなかったという反省点。「恋は蹴らない」は名言である。そんな尾籠な話はさておき。

 それなりに恋をしてきたからこそ考え過ぎてしまうヒロイン・文菜(あやな)を演じるのは杉咲花。コインランドリーで美容師のゆきお(成田 凌)との恋が始まる瞬間を描いたのが第1話。優しくて寛容な大型犬のような今彼である。朝ドラ「おちょやん」の夫婦役で共演した二人が、恋に落ちる様子をさらりと自然体で表現。

 文菜に好意を抱いている人物もいる。学生時代のバイト先の先輩で、美容師の小太郎。演じるのは岡山天音(一生恋人には昇格しない哀れさと報われなさが丁度いい)。文菜にとっては何でも話せる男友達である。

 問題はもう一人。実は文菜は小説家で、同業の先輩・山田(内堀太郎)もじわじわと距離を縮めてくる。恋人はいるのに文菜に引かれていることを告白。さらっとかわすも、気を持たせるような文菜を、ファム・ファタルと取るか、恋愛モラトリアム真っ最中と取るかは評価が分かれるところだ。

 ゆきおが堅実で一途で優し過ぎるため、なんだか満たされない、埋まらない穴があるのも確か。でも一人に全てを求めるのは酷。老婆心ながら、穴埋めは分散体制を勧めたいところだ。

 幸いにも、文菜には学生時代からの親友でロマンティック・アセクシュアルのエンちゃん(野内まる)がいる。居心地のいい行きつけの喫茶店もある。店主(芹澤興人〈たてと〉)とバイト(水沢林太郎)もちょうどいい距離感。方向性を相談できて、信頼できる担当編集(河井青葉)もついている。地元・富山に帰れば、仲良し同級生たちもいる。人に恵まれているのに、厄介な恋愛観を醸成した理由は、元彼たちとのエピソードでつづられる。

 高校時代の元彼(倉 悠貴)には遠距離が無理とフラれ、大学時代の元彼(細田佳央太〈かなた〉)にはもっと好きになってほしかったとフラれ、小説を書くきっかけをくれた元彼(柳 俊太郎)には、孤独になりたいとフラれている。文菜が好きになった人は皆離れていくし、成就しなかった恋もある。決して恋に臆病ではないが、予期不安がつきまとう。やや厄介な女の「恋模様走馬灯」とその先の着地点が楽しみである。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2026年2月26日・3月5日号掲載

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