わが子は発達障害かも?エリート商社夫は“汚点”と認めず… 30代シンガポール駐在妻が悩み続けた絶望の日々

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 一見華やかで優雅なイメージのある「駐在妻」たちが抱える苦悩や葛藤。駐妻専門のメンタルカウンセラー、臨床心理士で公認心理士の前川由未子さんへの取材を基に、駐在生活にまつわるさまざまなトラブルや実態について紹介する。今回は、発達障害を疑われた息子を持つ1人の駐妻のケースだ。

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 羽村江梨子さん(38歳・仮名、以下同)が、商社勤務の夫・聡一郎さん(42歳)のシンガポール赴任に伴い、当時小学1年生だった長男・隼斗くんと渡航したのは約2年前のことだった。

「赴任が決まったときは、本当にうれしかった。シンガポールはインフラも治安も完璧で、なにより教育水準がとても高いと聞いていたからです」

 江梨子さんは入念な情報収集の末、日本人駐在員の子息も多く通うインターナショナルスクールの小学部を選択した。

「そこは、帰国後も見据えて、日本の勉強もしっかり教えていただけて、グローバルな文化も身につく学校。私自身が英語に苦労した分、息子には自然に英語を習得してほしいという願いもありました」

 しかし、江梨子さんにはもうひとつ、切実な思惑があったという。

「日本にいた頃、息子はじっとしていることや我慢が苦手で。担任から、暗に専門機関への相談を勧められたこともありました」

「インターなら」

 発達障害の可能性を示唆されながらも、「成長すれば落ち着くはず」と信じたかった江梨子さんは、息子の特性を見て見ぬふりをしていたと語る。そればかりか、「インターならこの子の個性を尊重してもらえるのでは」という期待さえ抱いていた。

 しかし、現実は甘くはなかった。インター校では教師やカウンセラーの質がまちまちなケースもあり、子供が抱える真の問題に気づいてもらえないことがあるのだ。

 隼斗くんはクラスに馴染めず、孤立。学校側は、それが本人の特性によるものか、単なる言語の壁なのかを判断できず、放置する形となったそう。日本の学校のような「みんなで足並みを揃える」という意識が希薄な環境が、裏目に出たのだ 。

 さらに江梨子さんを追い詰めたのは、味方であるはずの夫・聡一郎さんの態度だった。江梨子さんは意を決して、隼斗くんの学校での様子や、かつて日本で指摘された発達障害の可能性について夫に相談した。しかし、プライドが高く、エリート商社マンとして成果を出し続けてきた聡一郎さんは、その言葉を即座に撥ねつけたという。

「俺の息子が障害なわけがないだろう。お前の育て方が甘いだけだ」、「そんなレッテルを貼って、俺のキャリアに傷をつけるつもりか」

「夫にとって、家族の優秀さも自分自身のステイタスの一部でした。わが子の特性を認め、どこかに助けを求めることは、自分の完璧な人生に泥を塗ることになると感じていたようです」

 夫の拒絶に遭い、江梨子さんは唯一の相談相手を失った。家庭内においても、彼女は「息子の問題を一人で抱え込む」という過酷な状態に追い込まれていった。

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