朝ドラ「ばけばけ」が描く「良いウソ」と「悪いウソ」 第100回の網騒動に込められた思い

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慎重に描かれた差別

 差別は婉曲かつ慎重に描かれた。松野家は第5回(昨年10月3日)、大橋川の北側から南側に移り住んだ。長屋である。没落士族など貧しい者が住んでいた。松野家の場合、司之介がウサギ事業の借金を背負ったから。トキは10歳だった。

 トキの幼なじみ・野津サワ(円井わん)も南側の住人だった。父親不在で貧しかったからだが、誇り高く、いつか自分の力で川の向こう側に行こうとしていた。トキもそうだったが、その思いはサワのほうが強かった。

 隣接する遊郭を毛嫌いしたのもサワ。トキは程なく遊女・なみ(さとうほなみ)と親しくなるが、サワは遠ざけた。錦織も遊郭を嫌った。第22回(昨年10月28日)、来日したばかりのヘブンが遊郭街に迷い込むと、自分からは街に近づかず、トキに連れ戻してくれるよう頼んだ。

 もっとも、やがてトキ、サワ、なみは友人のような関係になる。ふじき氏がこの物語で絶対に描きたかったことではないか。史実に沿うなら、この設定は不要なのだ。なみは農家の出身。元士族の生まれではない。この点でもトキ、サワとは違う。なみは8人きょうだいの長女。遊女として働き、弟と妹を育てていた。

 第78回(1月21日)、なみは裕福そうな男・福間(ヒロウエノ)に求婚される。だが、返事を留保した。「天にものぼる気持ちではございますが、怖いのでございます」。あまりに不幸が長いと、自分に幸せが訪れることが信じられなくなるのだろう。

 それでも第81回(1月26日)になみたちは結婚。トキは大いに祝福した。南側に残されるサワは複雑だったが、もちろん祝った。なにより大きかったのはなみがトキとサワの幸せを心底願ったこと。もう3人に境目はない。すっかり友人だ。

 第53回(昨年12月10日)、ヘブンが、自分に思いを寄せる島根県知事の娘・江藤リヨ(北香那)に対し、米国時代の結婚歴を明かす。相手の女性は黒人の血を引いていた。その土地では異人種との結婚は違法だったため、ヘブンは新聞社を追われる。祝福されない結婚に2人は深く傷つき、別れた。ハーンと同じである。

 第87回(2月3日)、トキは松江の人に石をぶつけられた。ラシャメンと誤解された途端、人々の目が一変した。一番恐ろしかったのは普通の人たちの態度が瞬時に豹変したことだった。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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