朝ドラ「ばけばけ」が描く「良いウソ」と「悪いウソ」 第100回の網騒動に込められた思い

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ウソが縦軸だった

 ウソはまだまだあった。松野家はトキの初婚の相手である山根銀二郎(寛一郎)に莫大な借金があることを隠した。このウソなどが理由になって、銀二郎は第16回(昨年10月20日)、家を出る。タチの悪いウソだった。

 ヘブンもトキから借金のことと雨清水家との関係を知らされていなかった。2人は結婚間近だったが、このウソにより、破断になってしまいそうになる。第69回(1月8日)だった。怒るヘブンをなだめたのは錦織である。こう言った。

「本音と建前で、日本の文化です。おトキさん、あなたとうまくやりたい。だから隠し事をしています」

 確かにトキはヘブンに嫌われたくなかった。だが、ヘブンには理解できない。第70回(1月9日)、松野家と雨清水家が一堂に会した家族顔合わせの席で、ヘブンはウソを指摘し、トキと三之丞に事実を正直に告白させた。

 ウソが縦軸になった物語のヤマ場は錦織の告白だった。錦織は自ら進んで松江に帰郷したわけではない。中学教師認定の試験に落ちたあとは東京にいた。「大盤石」と呼ばれ、地元の期待を一身に背負っていたから、戻りにくかったのではないか。 

 帰郷させたのは島根県知事の江藤安宗(佐野史郎)である。ヘブンの世話をさせるためだった。英語が堪能だったからだ。錦織を帝大卒にしようと言い出したのも江藤ではないか。箔を付けるためである。ただし、同調した錦織も非は免れない。

 第21回(昨年10月27日)、トキは4年ぶりに錦織と再会した。最後に2人が会ったのは第16回(同20日)。錦織が中学教師認定の試験を受ける直前だった。このため、トキは何気なく「試験のほうは?」と尋ねた。

 すると錦織は表情を硬くし、こう答えた。「よくおぼえているな。一応は……」。酷く歯切れが悪かった。合格したとは言っていない。錦織は本来、ウソが苦手なのだろう。

 錦織がヘブンや生徒たちにウソを告白した第95回は重苦しかった。ウソが嫌いなヘブンもさすがに錦織は責めなかったが、この時点ではウソを明かした真意が分かっていない。だから「江藤さんに校長になれるよう頼みに行きましょう」と錦織を誘い、断られた。錦織は「そんなことじゃないんで」と言った。ウソを吐き続けてきた自分に嫌気が差したのだ。

 第96回(2月16日)、舞台が熊本に移ると、一転して雰囲気が軽薄になった。落ち込んでいるのは「熊本には書く題材がない」と嘆くヘブンくらい。劇作家出身のふじき氏らしい極端なまでの場面転換だった。

 そして第98回(同18日)、一見意味のない網騒動が起こる。パンを焼くための網が見当たらなくない。ヘブン家の住人7人のうち誰かが盗んだり、隠したりしたのか。住人はお互いを疑い、険悪な雰囲気になる。

 住人はヘブン、トキ、司之介、フミ、さらに女中のクマ(夏目透羽)、松江から付いてきた書生の正木清一(日高由起刀)、同じく錦織丈(杉田雷麟)である。

 司之介とフミは相手が怪しいと睨み、口論になる。焼き網を管理していたクマは家内の雰囲気が悪くなった責任を痛感し、出ていくと言い出した。

 そして節目の第100回(2月20日)、丈と正木は「自分の懐中時計もない」「財布がなくなった」とウソを吐き、全員が潔白であることを証明する。家内に和やかな雰囲気が戻ると、全てを悟ったヘブンは大声を上げる。

「私、ウソ嫌い。でも2人、良いウソ。素晴らしい! 熊本、何もない、それもウソ。日本人の心、あります!」

 ヘブンはウソが一括りに悪いことと言えないことに気付いた。これを第100回に持ってきたのは計算ずくだろう。

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