夫婦に“性交渉”の義務なし フランスで法改正 かつては「行為拒否で190万円賠償」判決も

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「愛の国」とも呼ばれるフランスで行われた法改正が、国内外で注目を集めている。

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“性交渉は義務”の判決

 1月28日、日本の衆議院に当たる国民議会はフランス民法典の〈夫婦は互いに共同生活の義務を負う〉との規定に〈この共同生活は夫婦に性交渉のいかなる義務も生じさせるものではない〉との文言を追加し、〈性交渉の不在や拒否は離婚の理由にならない〉とする改正法を満場一致で可決した。

 不倫、浮気などの“火遊び”は、フランス映画や小説でも格好の材料の一つだ。が、司法の世界では民法典が規定する夫婦関係の〈尊重、貞節、扶助および支援しなければならない〉との条文を根拠に、長らく“夫婦間の性交渉は義務”との判決が下されてきた。

 例えば、夫に性交渉を拒否された妻が起こした離婚訴訟では、夫に1万ユーロ(約190万円)の損害賠償が命じられた。判決は「数年にわたる性交渉の途絶は夫婦関係の悪化の一因となった。性交渉はお互いへの愛情表現。結婚生活における継続的な義務の一部で妻の期待は正当」と示したのだ。

 民法典はナポレオン時代の1804年に制定された。カトリック系キリスト教の影響を色濃く受けた保守的なものだが、時代の変遷とともに改正が施されてきた。

〈家族の住居の選択権は夫にあり、妻は夫と共に住む義務がある〉との規定は1970年に〈共同生活の義務を負う〉との曖昧な表現に変更されたほか、同居の〈義務〉は11年前に破毀院(日本の最高裁に相当)が否定している。

夫婦間のレイプは犯罪

 フランスでは“夫婦の義務”の不履行が離婚事由になる一方、配偶者への性行為の強要も深刻な問題だ。背景について「女性を守る法律家の会」会長のミッシェル・ドワイヤン弁護士は、1月に放送された国営ラジオの番組で「フランス法が夫婦間のレイプを犯罪と見なしたのは1990年ごろからで、同意推定の原則が撤廃されたのは2010年。15年前までは“結婚イコール性的関係への同意”と見なされる同意推定があった」と指摘した。

 今回の法改正は、昨年1月に欧州人権裁判所が「夫婦の義務は性の自由、身体の自律性、私生活の尊重を侵害している」と認定したことを受けたものだ。

 発端は2012年。健康上の理由と家庭内暴力を理由に夫との性交渉を断った50代の妻が、離婚を申し立てた。離婚の成立は裁判所に認められたものの、性交渉の拒否を理由にされたことに反対。欧州人権裁判所に判決の違法性を訴えると、ここでは妻の主張が認められた。

 早ければ改正法は今夏に施行されるが、日本人ならどう受け止めるだろうか。

在仏ジャーナリスト・広岡裕児

週刊新潮 2026年2月19日号掲載

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