“絶対に負けられない”から「選挙運営を国営化すべき」 トランプ氏が暴挙を目論む理由は個人のエゴと泥沼の米国経済か

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FRB次期議長の主張に疑問

 米連邦準備理事会(FRB)の次期議長に指名されたウォーシュ氏の手腕も未知数だ。

 ウォーシュ氏は「7兆ドル弱規模に膨らんだFRBのバランスシートを大幅に圧縮すれば、インフレを再燃させずに利下げができる」と主張している。

 2008年9月のリーマンショック後、米国ではFRBが長期国債や住宅ローン担保債券(MBS)を大規模に購入する量的緩和(QE)に踏み切った。金利ではなくお金の量を変化させる「非伝統的金融政策」と呼ばれるものだが、ウォーシュ氏は「FRBの巨額の資産保有は金融システムを歪めている」と一貫して反対してきた。

 ウォーシュ氏の主張に市場関係者は懐疑的だ。ロイターは2日「『利下げによる景気刺激を図る一方、FRBの資産圧縮を実施するのは矛盾している』との疑問が市場で流れている」と報じている。

 トランプ氏の行動も混乱を呼んでいる。トランプ氏は5日の非公式の夕食会で、ウォーシュ氏が就任後に利下げしなければ訴訟を起こすと発言した。本人は冗談としているが、利下げに消極的な現議長のパウエル氏が刑事捜査対象となっているだけに、笑い事では済まされない。

次の手段は「選挙国営化」

 FRB新議長が就任すると株式市場は大幅に下落するというジンクスも気がかりだ。ブルームバーグによれば、1930年以降、FRB新議長が就任した直後の半年間のS&P指数は平均16%下落したという。

 唯一の好材料である株価まで下落する事態となれば、11月の中間選挙で共和党が苦戦するのは間違いない。危機感を募らせるトランプ氏は暴挙とも言える手段を講じようとしている。

 トランプ氏は3日、米国の選挙を国営化すべきだと主張した。米国憲法は選挙管理の主体を州政府と明示しており、実際の運営は郡や市の職員が担ってきた。その運営全般を連邦政府の管轄下に置くべきという主旨だ。

 今回の発言の1週間前には、連邦捜査局(FBI)がジョージア州フルトン郡の選挙管理事務所を捜索した。トランプ氏が“フルトン郡で大統領選挙が盗まれた”と主張し続けていることにかんがみ、各種メディアは2020年大統領選における不正の有無の検証が捜査の目的と報じている。

勝利か、史上初3度目の弾劾訴追か

 トランプ氏の「選挙国営化」発言に対し、野党民主党は強く反発し、与党共和党内からも戸惑いの声が上がっている。ホワイトハウスも火消しに走っているが、トランプ氏は発言を撤回するそぶりをまったく見せていない。

 トランプ氏は5日、自分のエゴを満たすために2024年の大統領選挙に勝利する必要があったと発言した。2020年大統領選で敗北したことへのリベンジ(復讐)を果たさない限り、死んでも死に切れなかったという思いだろう。

 中間選挙で共和党が敗北すれば、トランプ氏は史上初、3度目の弾劾訴追をされる可能性が高い。このため、自身のエゴを満たすためにはどんな手段を使っても勝利しなければならない、と考えているとしても不思議ではない。

 だが、トランプ氏の企みはあまりにも危険だ。米国の民主主義が崩壊してしまうのではないかとの不安が頭をよぎる。悩める超大国の動向について、今後も最大限の関心を持って注視すべきだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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