大したことがないと思っていたら“背骨にヒビ”が… 横尾忠則が経験したコワい「転倒」の話
この間、自転車で転倒しました。その時は大したことがないと思っていたら夜になって少し痛み出して、翌朝はかなり痛くなったけれど、少々我慢をすれば自転車にも乗れるし絵も描けると思って自然治癒に期待をかけてみました。ところが、だんだん不自由になり出したので病院の整形外科を訪ねて、レントゲンを撮った結果、背骨にヒビが入っていることが判明しました。
と言って自転車は生活必需品で乗らないわけにはいかないので、もう少し安全な老人用の自転車を購入することにしました。この自転車は車輪が小さく、サドルに腰を下したまま両足が地面に着くので、両足で地面を蹴るようにして進めば腰を掛けたままの歩行運動が可能です。
アトリエができて40年以上になります。自宅からアトリエへのコースの途中には石原裕次郎さんや大江健三郎さんや田村正和さん、倉俣史朗さんや絹谷幸二さんら、今は亡き知人達の家があるので、その日の気分でコースを変えながら、彼等の家の前を通って、アトリエに向っていました。最初は徒歩だったのですが、いつの間にか自転車通勤になりました。一度自転車を利用すると歩くのが億劫になってしまい、その後今日まで歩くということがほとんどなくなり、完全に運動不足になってその内身体のあちこちに障害が生じて、病気の原因になってしまいました。
全ての悪の根源は自転車です。老人専用の自転車に変えてからはかなり走り易くなりました。僕は重度の難聴で、ほとんど言葉や物音が聴き取りにくくなっています。道を歩いていて後から車が来ても音が聴こえないので、非常に危険。そこで自転車にバックミラーを装着しました。だから前方と同時に常にバックミラーを見て後方を確認しながら走っています。本当は歩いている時もバックミラーが必要です。いつも後を振り返りながら歩いています。耳が不自由というのも想像以上に生活に支障を与えます。難聴に関しては又の機会に語りたいと思います。
アトリエへのコースの途中には四つ角が5~6ヶ所あるので、自転車でそこを曲るのは特に危険です。家が建て込んでいるために見通しは最悪です。信号のない角は出合い頭にいきなり自動車が横から現われることもあって、何度も危険な目に合っています。
つい、数日前も、信号のない四つ角で中年の女性が自転車で転倒したのか、僕がそこに差しかかった時は担架に乗せられて救急車内に運ばれるところでした。そこにころがっている自転車の車輪が曲っていたのでかなり派手に転倒したようです。車道は車が走っていますが、人が倒れているからといって急停車などするとかえって危険なので、停車して彼女の安否を気づかった人はいなかったようです。
転倒者の女性は自力でスマホで119番に電話をしたのでしょうか。救急車だけでなく、お巡りさんもいたので110番にも電話をしたのかも知れません。僕も見物をするわけにもいかないので、そばを自転車で通り過ぎましたが、あの車輪の曲った自転車は誰が処理したんですかね。きっと付き添っていたお巡りさんが処理したんでしょうね。
僕が自転車で転倒して、2~3日後の出来事だっただけに、自転車は要注意だと思いました。自転車の運転は簡単なので、つい無理な操作をしてしまいます。
この原稿は行きつけのファミリーレストランで書いています。ここまでは自転車で来ましたが、結構交通量の多い車道の端を自転車で走ります。こんな原稿を書いた手前、特に用心してアトリエに帰らなきゃと思います。
アトリエに帰ったらニューヨークのイーストハンプトンに住む親友でイラストレーターのポール・デイビス夫人のマーナからメールが来ていました。その内容はポールが転倒して股関節を骨折して、手術を受けた後、リハビリ施設に入所して、自宅に戻った途端再び転倒して反対側の股関節を骨折して同じ治療のプロセスを再び経なければならなくなったというもので、とても驚いています。
僕の周辺でも、このところ本人や親が転倒したというニュースが度々入っています。人ごとではないと思っていましたが、やはり自分ごとでもあったのです。骨折した人達のほとんどが僕の年齢か、その前後の老齢者です。
転倒はやはり、ちょっとした不注意が原因ですが、老人は思わぬところで転倒します。目に見えないようなスロープや小さい石ころや、2~3センチの段差でも転倒します。病気と違って転倒はケガです。老齢者のケガは下手すると命取りになります。ケガによって寝た切り老人になってしまうこともあります。この歳になると一日に何度も蹴躓きます。本当に転倒は人ごとではないです。お互いに気をつけましょう。


