短歌史1300年で指折りの大事件 俵万智「サラダ記念日」はなぜ1年で240万部も売れたのか?
昭和の末、1987年に高校の国語教師が出した歌集が短歌の世界を一変させた。いわずとしれた俵万智さんの『サラダ記念日』の登場である。1年間で240万部。親しみやすい平易な言葉で若者の日常の風景を鮮やかに切り取った歌が、短歌を身近な、若々しいジャンルとして蘇生させた。
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いまでも短歌界の最前線を疾走している俵万智さんの歌がなぜ革命的だったのか、宮中歌会始の選者を務める歌人・三枝昻之さんが、105首の名歌を選んで解説した新刊『百年の短歌』から、一部を再編集して紹介しよう。
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空中に繰り返し書く指で書く「い・た・い」はあと一文字で「あ・い・た・い」――俵万智
昭和末期に出た『サラダ記念日』は事件だった。作者は24歳の新人、昭和62年5月8日発売の初版は8000部、7月22日に34版。勢いは止まらず1年後には367版、240万部。せいぜい1000部の短歌の世界の異常事態だ。反響は寅さんにも広がり映画「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」となった。
しかし歌壇の、特に前衛短歌の影響を受けた世代からは批判が噴出した。「常識的な価値観を出ていない」、「否定精神がない」、「コピー感覚の機知に過ぎない使い捨ての歌」。そして私の危惧は「幼さごっこ」。常識的、否定精神の欠如、コピー感覚、幼さごっこ。実はこれらはそのまま俵万智の長所だった。
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
渾身の告白と無縁なこのフラットな親愛感が、全共闘世代の〈恋と革命〉やその後のフェミニズムを押し流し、ごく普通の話し言葉が等身大の青春の魅力となることを、日常瑣末にも大テーマがあることを世に知らしめた。たとえて言えばTBSテレビ昔の東芝日曜劇場、あのごく普通の暮らしの滋味の青春版。
俵万智はその後も規格外だった。
バンザイの姿勢で眠りいる吾子よ そうだバンザイ生まれてバンザイ
縁側に並んでスイカを食べているぷぷぷぷぷっと我が子島の子
最後とは知らぬ最後が過ぎてゆくその連続と思う子育て
母となったがなんと未婚の母。東日本大震災に襲われると7歳の息子を連れて石垣島へ移住。子が中学生となる節目に宮崎へ。歌は順に『プーさんの鼻』『オレがマリオ』『未来のサイズ』から。
そして掲出歌は令和五年刊の最新歌集『アボカドの種』から。辛い切ない痛いが充満している今日の青春。しかしそこに一点加えると人との絆が小さく蘇り、心に温感が広がる。言葉のセンスが光るこれは俵万智版の人生への応援歌だろう。
七色の紫陽花の咲くこの国の大切な人、きみと君とキミ
『サラダ記念日』の「君」からこの国の「きみと君とキミ」へ。歳月の蓄積を感じさせる『アボカドの種』から。
ごく普通の言葉で綴るささやかな想いも、定型に乗せると詩の香りをまとい、共感度の高い世界となる。俵万智の世界は言葉の機微を、人生の機微を、そして短歌の機微と魅力を改めて教えている。
※この記事は、三枝昻之『百年の短歌』(新潮選書)の一部を再編集して作成したものです。










