トランプ氏がグリーンランドを欲しがる“真の理由”とは EUからの警告を無視して米国が回帰する「NATO離脱論」

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今回も金銭による円満解決が合理的

 トランプ氏がグリーンランドの領有にこだわる理由は、レアアースなどの経済的利権の確保だと指摘されることが多い。気候変動で氷床が溶けたことで採掘が容易になったため、近年、グリーンランドが有するレアアース、ウランなどに関心が高まっているのは事実だ。

 米国はグリーンランドでの資源採掘の点でも他国に先んじている。トランプ氏からグリーンランド担当特使に任命されたルイジアナ州のランドリー知事が中心となって、グリーンランドでのレアアース開発は軌道に乗りつつある。

 トランプ氏のレガシー(遺産)づくりに資するとの主張も有力だ。グリーンランドの領有は19世紀のルイジアナやアラスカ獲得に匹敵する大事業だ。歴史に自らの名を刻みたいトランプ氏にとって格好のターゲットだというわけだ。

 ルイジアナやアラスカをカネで手に入れた経緯に鑑みれば、今回も金銭による円満解決が合理的だが、トランプ政権が欧州側の反発も辞さない構えだ。

米国で「NATO離脱論」が存在する理由

 デンマークのフレデリクセン首相は、米国が武力でグリーンランドを奪えば、80年にわたるNATO(北大西洋条約機構)が破壊されると警告した。驚いたのは、トランプ政権がこれを無視したことだ。

 思い起こせば、トランプ政権1期目からNATO離脱論が浮上していた。1期目以上に「米国第一主義」を鮮明にしているトランプ氏が、冷戦時代の遺物ともいえるNATOから本気で離脱したいと考えている可能性は十分にある。

 グリーンランドをめぐるトランプ氏の対応については、「非常識」や「有害」といった批判がほとんどだが、筆者は「米国の伝統的な考え方に回帰しているのではないか」と考えている。

 意外かもしれないが、米国とソ連(現在のロシア)の関係は冷戦前まで比較的良好だった。社会主義か民主主義かというイデオロギーの違いはあるが、利益などをめぐる衝突は少なかったからだ。

 NATOにしても、現在は国際社会の安全保障に不可欠という見方が常識化しているが、第2次世界大戦直後の米国では設立に反対する声が少なくなかった。西欧諸国が米国を対ソ連防衛に引きずり込もうと画策しているとの指摘もあった。

冷戦以前の米ソ関係は比較的良好だった

 しかし、西欧諸国の“企み”は功を奏し、ソ連の強大な軍事力に対抗するため“米国が利用される時期(冷戦時代)”が半世紀近く続いた。冷戦終結でNATOの必要性は大幅に低下したが、2022年のロシアのウクライナ侵攻を機にその必要性が再認識されているのが現状だ。

 トランプ氏はウクライナの停戦交渉でロシア寄りだと揶揄されているが、元来、利害対立が少ないロシアに宥和的な姿勢を示していると考えれば合点がいく。

 トランプ氏は、米国を再び解放すると主張しているが、欧州防衛の負担から米国を解放することも視野に入っていたとしても不思議ではない。これに成功すれば、トランプ氏は願ってもないレガシーを手に入れたと思うのではないだろうか。

 トランプ政権のこのような動きは日本にとっても対岸の火事ではない。わが国の安全保障に不可欠な同盟国の動向について、引き続き高い関心を持って注視すべきだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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