ラノベの“ジャケ買い”は本当にあるか? 「“イラストレーターガチャ”は売れ行きに影響する」との声も
小説のジャンルとして定着したライトノベル。本の表紙や挿絵に漫画やアニメ風のイラストを採用しているのが特徴で、『涼宮ハルヒの憂鬱』などのヒット作を生み出す土壌となった。近年、その市場が縮小していると言われているものの、依然としてライトノベル原作のアニメは多く、コンテンツの供給元として重要な存在であるのは間違いないだろう。
ライトノベルを語る上でたびたび議論になるのが、「ライトノベルは小説の中身で売れているのか、それともイラストで売れているのか」という点である。オタク界隈では“ジャケ買い”という言葉がある。データこそないものの、ライトノベルの表紙や挿絵のイラスト目当てに購入する層は少なからず存在するようだ。【文=山内貴範】
“ナコルル”の絵の人
2000年代以降のライトノベルは、いわゆる美少女系のイラストレーターにとって重要な仕事の場になっていた。宝島社が刊行するガイドブック「このライトノベルがすごい!」にはイラストレーターの人気ランキングがあるが、誰がイラストを担当しているのかによって、本の売れ行きは左右されるといわれている。
筆者の知人の人気ライトノベル作家は、「正直、私のライトノベルに重版がかかり、続編が出たのはイラストレーターのおかげ。ライトノベルは店頭で内容を確認してもらうことが難しく、お客さんを引き付けるうえでイラストは極めて重要ですから、“イラストレーターガチャ”が確実に売れ行きに影響する」と、話す。
小説そのものが面白いことは大前提とはいえ、筆者にはイラストの力を実感したエピソードがある。筆者は小学生の頃から、故郷の書店で漫画を買う常連だった。1998年、中学生になると、書店内にあった学習塾に通い始めたこともあって店主と親しくなり、仕入れのアドバイスを行っていた。「この漫画は面白いから売れますよ」などと偉そうなことを言い、実際売れていたので、調子に乗っていた。
ある日、本棚に『気象精霊記 正しい台風の起こし方』(清水文化・著/富士見書房刊)というライトノベル(なお、90年代当時は、ライトノベルという言葉がまだ一般化していなかった)が並んでいるのを見て、手に取った。表紙には“イラスト:七瀬葵”とある。どこかで見たことがある名前だと思ったら、「ああ、“ナコルル”の絵の人か!」とわかった。
「表紙が見えるように並べましょう」
筆者はライターをやっているくせに小説が苦手で今もほとんど読まないものの、アーケードゲームは好きだった。七瀬氏の名前は、筆者が通っていたゲームセンターに置いてあった雑誌「ゲーメスト」で知っていた。「ゲーメスト」といえば、今では「インド人を右に!」などの誤植(正しくは「ハンドルを右に!」)が多い雑誌として有名かもしれないが、アーケードゲームの攻略法が載っているため、ゲーマーを中心に愛読者が多かった。
ナコルルとは格闘ゲーム「サムライスピリッツ」のキャラクターで、「ゲーメスト」が発売するグッズの絵を七瀬氏が描いていた。また、ゲーマーの先輩が、グッズをおそらく通販などで買っていて「七瀬葵が描くナコルルはかわいい!」と絶賛していたのである。実際、大量に配本されてきた本のなかでも目立つほど七瀬氏の絵には存在感があった。
店主はほかの小説と同様に本棚に差し込み始めた。本棚に入ったら、かわいい絵が見えないではないか。私は「せっかくだから、表紙が見えるように並べましょうよ」と提案したところ、店主はそうしてくれた。すると、あっという間に本が売れたのである。すぐに追加の本が取次経由で入ってきたが、それも売れた。筆者にとっての成功体験で、純粋に嬉しかった。
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