迷子を届けたら「母親」にほのかな違和感… その十数年後、怪談作家に起きた「再会」と「確信」【川奈まり子の百物語】
確信
2025年の10月の終わり頃に、行く用があって教えられた住所を訪ねたら、そこが閻魔坂に面していた。用事を済ませてもまだ日が高かったので、いつもの散歩癖が出て、久しぶりにR墓苑を訪れてみたところ、墓地の奥の方から、痩せた女性が独り、灰色の長いコートの裾とストールを風になびかせて颯爽と歩いてきて私をすれ違った。
見たことがあるような気がすると思って振り向くと、管理事務所の建物の影から若い男性が出てきて、こちらに向かって歩いてきた。
細身の青年だった。手に水桶を提げている。
さっきのロングコートの女性は、いつの間にか姿が見えなくなっていた。
青年は私をちらっと一瞥したが、何も思うところがないようすで、無表情のまま、墓地の通路を歩み去った。
――そのときは特に気にせず帰ってきてしまったが、翌朝、今の住まいの近所を散歩していたら、青山霊園で鴉の死骸をたまたま見つけて、その途端に昨日の青年とロングコートを着た女性が、17~8年前にR墓苑に案内した子どもと女の幽霊の一件と分かちがたく結びついてしまった。
単なる思い込みだ。
勘違いかもしれない。
そんなふうに打ち消すそばから、R墓苑で水桶を持って歩き去ったあの青年はかつての小学生で、コートの女はその母親なのだと思えて仕方がなく、根拠もないのに確信に近い感じになってしまって、現在に至る。
鴉についても、理性では偶然だとわかっているのに、そうは思えない。
ずっと昔に鳥居坂を低く飛んできた鴉。
最近、青山霊園で死んでいた鴉。
まったく関係がないはずなのに……。
今では、細い体つきのあの青年は母親の祥月命日に墓参りしたのだろうと、そんなことまで想像している。
―――
【記事前半】では、十数年前に住んでいた麻布十番と、そこで出会った迷子の少年、2人で向かった墓苑について詳細に述べている。
[2/2ページ]

