【ばけばけ】作中の寺や神社を恐る恐る訪ねる楽しさ いまも怪談や奇談が息づくスポット案内
狐に守られる神社、縁を取り持つ神社
第9週「スキップ、ト、ウグイス。」では、ヘブンはリヨの案内で島根県庁を見学すると、次に「ジョウザンイナリ」に行きたいといい出した。彼らのあとをつけていた江藤県知事と錦織も一緒に城山稲荷神社(松江市殿町477)に着いたヘブンは、境内に1,000以上も鎮座している大小の石狐にすっかり魅了された。実際、ハーンはここを気に入って、尋常中学校に通勤する途中に何度も立ち寄っていた。とりわけ随神門の前にある一対がお気に入りだったという。
この神社は松江城の中核である内堀の内側、亀田山中にある。松平直政が藩の守護神として祀ったのが起源で、それに関しては次のような伝承がある。直政の前に稲荷真左衛門と名乗る美少年が現れ、「私の住まいを城内にもうけてくれれば、城下を火難から守る」と告げて消えた。だからこそ、数多くの狐たちが一帯を守護しているというのだ。
ここまでは松江の市街から徒歩圏内だが、車を使うなど少し足を延ばせば、第1週「ブシムスメ、ウラメシ。」(2025年9月29日~10月3日)以来、たびたび登場している八重垣神社(松江市佐草町227)がある。
ここは素戔嗚尊が八岐大蛇を退治して稲田姫を難から救い、2人が結ばれたと伝わる場所で、出雲の縁結びの大親神として、古くから夫婦円満にも良縁結びにもご利益があるとされている。とくに神社裏手の森にある「鏡の池」は、稲田姫が八岐大蛇から逃れて隠れた際、ここの水を飲料とし、自分の姿を映していたと伝わる。
セツの時代以前からある「縁占い」は、池に占い用紙を浮かべ、その上にそっと硬貨を乗せるというもの。早く沈めば縁が早く、遅く沈むと縁が遅く、近くで沈むと身近な人と縁があり、遠くで沈むと遠方の人と結ばれる、とされる。第1週でトキは仲間2人を八重垣神社に誘い、縁占いをした。すると2人の仲間の紙はすぐに沈んだが、トキの池の向こう岸まで流れても沈まない。じつはセツも、少女時代に友だちと八重垣神社を訪れて『ばけばけ』と同様の結果になり、「セツさんは、きっと遠くへお嫁さんにゆくのでしょう。もしかしたら、お相手は異人さんかもね」といわれたというのだ。
まだまだある怪談スポット
すでに『ばけばけ』に登場した怪談や伝承にまつわる寺や神社はこのくらいだが、同様のスポットは、松江にはまだまだある。
松江城を築いた堀尾吉晴が城の祈願所として開山した普門院(松江市北田町27)は、ハーンの怪談「小豆とぎ橋」ゆかりの場所だ。普門院前の橋で「カキツバタ」を謡ったら災厄が降りかかる、との言い伝えに抵抗し、大声で謡った侍は、帰宅すると見知らぬ女から漆塗りの文箱を渡される。そのなかには血まみれのわが子の首が入っていた――。
ハーン(八雲)が『知られぬ日本の面影』のなかで紹介している、男女の不思議な話の舞台となった妙興寺(松江市寺町170)もある。将来を約束した男女がいたが、戦に出た男は帰って来ないまま、失望した女は病死した。その後、男は帰ってきたが、すでに女はこの世におらず、絶望して女の墓の前で死のうとするが、死んだはずの女が現れて止めた。2人は遠方の地で結婚し、子どもにも恵まれたが、あるとき娘がいなくなった。布団をめくると、子どもに添い寝していたのは女の位牌だった――。
松江は県庁所在地でもあるかつての城下町では、例外的に第2次大戦の空襲をほとんど受けずに済んだ。このため、ハーンとセツにゆかりのスポットの多くが、いまも当時の雰囲気をとどめているのである。
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