最注目の「安青錦」は初場所を制すか? 「新大関」の成績が伸び悩む意外な理由 「とにかくお座敷が…」

スポーツ

  • ブックマーク

 大相撲初場所が始まる。話題の中心は新大関の安青錦。先場所は横綱・豊昇龍を本割・優勝決定戦と続けて破り、初優勝を飾った。新入幕から4場所連続11勝に続いての12勝。一気に新大関に推挙された。場所後から年末年始にかけて、巡業、イベント、テレビ出演等々で大忙し。相撲と言えば真っ先に安青錦の名前が上がる人気者になった。つい半年前、新横綱に昇進して話題をさらっていた大の里がかすむくらい、すっかり安青錦が主役の座を奪った。

 ファンは安青錦がこのまま横綱に駆け上がる未来を期待している。初場所で安青錦は優勝できるのか? まずはデータから優勝の可能性を占ってみよう。【取材・文=小林信也】

誘いを断り辛い空気

 最近の《新大関10人の昇進場所の成績》を見てみると、案外芳しくない。

 大の里は9勝、琴の若(現・琴櫻)が10勝、豊昇龍は8勝7敗だ。いずれも優勝争いには絡めなかった。10人中、2ケタ勝利は3人。御嶽海が11勝、照ノ富士が12勝、朝乃山12勝。照ノ富士は優勝決定戦で貴景勝を破り優勝、次の場所も14勝し、2場所で横綱に昇進した。ファンは安青錦にこの再現を期待しているだろう。が、霧馬山(現・霧島)は6勝7敗2休、正代は3勝2敗10休、貴景勝3勝4敗8休、栃ノ心5勝2敗8休と、途中休場が4人もいる。つまり4割の新大関が、昇進場所後いきなりカド番の危機に直面しているのだ。いまの安青錦と同じく、大関昇進時はどの力士にも勢いがあった。ところが、突如ブレーキがかかるのが〈新大関の怖さ〉と言えるだろう。

 理由は何か? とにかく新大関は忙しい。お座敷が次々とかかる。他競技なら、「稽古第一、取材やテレビ出演、スポンサーの誘いなど断っていい」と所属先やコーチが判断する場合もあるだろう。だが日本相撲協会は違う。横綱、大関は日本相撲協会の看板、公式行事には常に参加を求められ、忙しい。後援者(タニマチ)が大相撲と所属部屋の経営を支える生命線だから、後援者の誘いは断れない。お座敷で、横綱、大関が「ノンアルで」とも言えない空気があるから、体調管理も簡単ではない。そう言えば、重い糖尿病と膝のケガで大関から序二段まで陥落した照ノ富士は、体質改善のため、完全に断酒したという。「角界一の酒豪」とまで呼ばれた照ノ富士がお酒を口にしなくなったのだ。タニマチもその事情は知っているから、お酒を進めることはしなかっただろう。案外、そういう節制のできる状況が、照ノ富士の大関昇進場所での優勝を助けたのかもしれない。

うまみのある相手

 私は、大の里の取材をしていた関係で、大関昇進直後に旅先で会い、昇進祝いの席に立ち会った。追いかけるメディアの数、大の里を見つけて集まってくるファンの数も勢いも昇進前とは格段の差があった。忙しさは半端ではなかった。まあ、稽古どころではないお付き合いが延々と続く。それが大相撲の宿命なのだ。その姿を見ていると、大関の地位、その役割に慣れるには一定の期間が必要だろうと納得がいった。大器・大の里でさえ、大関昇進後優勝するまでに3場所が必要だった。

 大関になる前となった後の厳しさは他にもある。

 よく〈追う立場〉〈追われる立場〉といった表現をされるが、追われる立場の難しさは精神論だけの問題ではない。大相撲には〈賞金〉がある。多くの賞金がかかる取り組みに勝てば多額の賞金が手に入る。平幕力士にとって、たった一番で100万円、200万円が手に入る横綱、大関戦は「テンション爆上がり」としばしば元力士たちが語っている。

 平幕だった安青錦と対戦した時はそれほど懸賞金がかかっていなかった。が、大関になった安青錦の取り組みにはより多くの懸賞がかかるだろう。つまり、安青錦に勝てば平幕同士の対戦に勝つより余禄が増える。いやでも燃えるというわけだ。もちろん相手が横綱となればさらに高額になる。昨年九州場所、〈ご指名〉の懸賞が最も多かったのは大の里で164本。次が九州(熊本)出身の人気力士・義ノ富士134本。最多の指名は「結びの一番」で294本。横綱の賞金獲得額はだから自ずと高くなる。

 ちなみに九州場所の賞金ランキング1位は大の里、317本で1902万円。2位が豊昇龍の249本で1494万円。優勝した安青錦は3位で128本、768万円。同じ12勝でも横綱・豊昇龍の約半分。やはり地位がこの差を生んでいる。大関になって人気沸騰している初場所はこの差が縮まるだろう。その分、相手力士にとって安青錦はうまみのある相手となるわけで、これまで以上の闘志と研究成果を携えて臨んでくるだろう。安青錦がいままで同様に勝てるとは限らないというわけだ。

 ライバルたちは安青錦のどこを攻め、どこに勝機を見出してくるだろう。

 これまで幕内で安青錦が敗れた相手は、大の里(0勝3敗)、義ノ富士(0勝1敗)、金峰山(1勝1敗、十両でも1敗)、大栄翔(0勝2敗)ら、大きくて馬力のあるタイプ。立ち合い一気、下からめくり上げられ、そのまま圧倒されると成すすべがない。そして意外にも、朝紅龍(0勝1敗)、若隆景(2勝2敗)と、相撲巧者にも星を落としている。

 逆に安青錦の勝ちパターンは、低い体勢のまま鋭く、粘り強く攻める相撲だ。相手が安青錦を上から潰そうとしたら思うつぼ。相手は逆に自分の身体が浮いてしまい、安青錦につけこまれる。あの低さを見れば、つい上からと思うのだろうが、安青錦が潰れないことはもう周知の事実。「引いたら負け」の鉄則があるように、「安青錦は上から押さえに行ったらやられる」と誰もが肝に銘じているだろう。

次ページ:《大安時代》の幕開けが近づくか

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。