ハリウッドスターや有名作家…著名人をも魅了した「八千草薫」 年を重ねても変わらなかった「清楚な美しさ」【昭和女優ものがたり】

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「赤い疑惑」降板の真相

 その後、宝塚歌劇団を退団した八千草はテレビ出演が増えてくる。「前略おふくろ様II」(1976年 日本テレビ)、「阿修羅のごとく」(1979年 NHK)など、話題になった作品も多いが、作品選びにはとても苦心していたという。この頃の彼女の素顔が垣間見えるエピソードがある

 70年代、山口百恵の人気は歌、映画、テレビのいずれも席巻していた。彼女が主演の「赤いシリーズ」も高視聴率を取る人気番組で、第2シリーズ「赤い疑惑」(1975~1976年 TBS)に、八千草は山口の母親役で出演した。しかし、第6話で降板してしまい芸能マスコミが騒ぎたてた。山口の過密スケジュールのため、彼女がいなくてもいるようにして演技をしなくてはならないことが続いたためと報道される。

 この真相をやはり白井佳夫が(山口の名前は出さずに)聞いている。八千草は、「そんなこともありましたねえ(笑)」「方針というよりも、できないんですよ。イヤなことは、結局どうしてもできなくて」と認めている(『対談集 銀幕の大スタアたちの微笑』)。表面のイメージと違って、八千草はとても意志が強く、俳優としてのこだわりを持っている人だということがわかる。

テレビ史に残る「岸辺のアルバム」

 家が川に流される実際の映像に、ジャニス・イアンの歌う「ウィル・ユー・ダンス」が静かに重なるオープニングを覚えている人も多いだろう。ドラマ「岸辺のアルバム」(1977年 TBS)は、多摩川水害(1974年)をモチーフにしている。

 多摩川沿いの家に住む一家4人がそれぞれ抱えている秘密を中心に、家族とは、親子とはと問いかけるシリアスなドラマだった。八千草は家にかかってきた電話の男と、関係を持つ主婦を演じた。先の読めない展開の面白さとともに、これまで良妻賢母役が多かった八千草が、「不倫の人妻」を演じることで話題を集めた。

 当初、八千草はこのドラマの出演を断った。浮気が夫に発覚した時に「ここにいさせてください」という心理がわからなかったからだ。だが、脚本の山田太一と話をして「浮気でも本気に好きになればいいのだと思い」引き受けたという。今では「別の女優さんが演じていたらさぞ後悔しただろう」と語っている(「文藝春秋」2017年2月号)。

 改めて観ると、八千草の繊細な演技に驚く。家族の気持が掴めずに悩む主婦から、浮気に走るまでの心理の変化。家族がバラバラになりそうな時懸命に立ち直ろうとする姿など、巧みに演じているのだ。八千草はこの作品で、テレビ大賞主演女優賞を受賞した。

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