識別チップを体に埋め込まれ、管理され… NHKがド年末に放った「ド直球SF」

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 ド直球SFをド年末にドーンと放つNHK、悪くない。タイムリープで令和とつなぐなど生ぬるい話ではない。一気に100年後の世界を描くのが「火星の女王」だ。

 人類が火星移住を始めて40年経過した2125年が舞台。火星はどうなっとるかというと、コロニー(地下居住施設)の人口が10万人に達したときに、国際専門機関のISDA(イズダ・惑星間宇宙開発機構)が統治を開始。居住者はタグ(個人識別チップ)を埋め込まれ、全ての行動が監視されるように。住居、水や食糧や医薬品、許可証の類いが保証される代わりに、職業も選べず、結婚や子どもを持つことも許可が必要。安全と引き換えに主体性と自由を奪われるわけだ。当然、タグを拒む人もいる(通称・タグレス)。ISDA統治前からの火星開拓民で、紫外線や放射線が強くて危険な地表に近い地域(コロニー0〈ゼロ〉)に住み、独自のコミュニティーを形成。

 ところが、ISDAが火星からの撤退を発表、住民を地球へ帰還させる計画を開始した。火星に根を張ってきた住民からは不満の声も。

 火星移住とか宇宙のことはよう分からんが、この超想像力で構築された設定には説得力がある。タグで管理される快適さと気味悪さのてんびんなんてさもありなん。やっぱりSFには「人間が人間らしくあるための余白が否定されたり、排除されたりする」ある種の憂いが必要なのねと改めて思った。あと、宇宙生活はなぜか無印良品的な色彩で描かれるのね。科学的な理由があるのだろうけれど、その味気なさは近未来の定番なのね。

 主人公は火星で生まれたリリ(スリ・リン)。視覚障害のあるリリは、地球帰還計画の第1陣として、宇宙船搭乗試験に合格。リリの母・タキマ(宮沢りえ)はISDAの日本支局長、恋人の白石アオト(菅田将暉)もISDAの職員で、地球にいる。地球行きを心待ちにしていたリリだが、宇宙船搭乗の直前、何者かに拉致される。実行犯はチップ(岸井ゆきの)、コーン(柳俊太郎)、ポテト(米本学仁)らコロニー0の住民。火星の警察官・マル(菅原小春)とミト(宮沢氷魚)が捜索に動く。

 タキマの元には地球帰還計画の中止を要求する犯行声明が届く。差出人はISDA統治に抵抗する組織「コクーン」のリーダー・シュガー(ソウジ・アライ)。彼は22年前の暴動で射殺されたはず……という展開へ。

 もう一人の主人公ともいえるのが、吉岡秀隆演じるリキ・カワナベ。火星最大の企業・WHALE(ホエール)社で資源調査を担う。22年前、地球で宇宙鉱物学者の白石恵斗(松尾スズキ)と共に未知の超重元素物体を発見したが、公表直前に物体も白石も姿を消した。世紀の大発見が捏造(ねつぞう)扱いされた苦い過去がある。リキが同じ物質をコロニー0で発見したため、火星では覇権争いの様相を呈してきたわけよ。

 説明ムズい、書き切れん。とにかく壮大かつ緻密な想像力に魅了されとる12月末。さまつだが気に入ったのはリーダーやボスに女性が多い点。100年後はジェンダーギャップが解消され、国籍の壁も技術革新で消滅した世界。ちょっと心躍る設定だ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2026年1月1・8日号掲載

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