「子グマが空き家や車庫で“冬眠”する懸念も…」 冬眠方法を知らない子グマが急増中の理由

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「エサさえあれば冬眠の必要はない」

 環境省によると、昨年度に全国で捕獲されたクマの数は5346頭。一方、今年度は10月末時点で9867頭に達し、その多くは成獣とみられている。

 クマの生態に詳しい石川県立大学の大井徹特任教授が言うには、

「捕獲数が急上昇している裏側で、母グマが駆除されて子どもだけが残されたケースも相当数あると考えるのが妥当です。一般的に子グマは冬眠期間中の1月ごろに生まれ、その後、1年半ほど母グマと行動を共にします。その間に大木の一部が腐り空洞化した場所や、根返り(樹木が根っこから転倒した状態)の際にできた穴など、冬眠に適した空間を探すすべを学びます。しかし穴探しの経験や学習機会を奪われると、独り立ちしてもどこで冬眠すればいいのか分からなくなる。今年に入って、そんな子グマが増えている現実は否定できません」

 そもそもクマが冬眠するかどうかは、気温などの条件より、エサの有無で決まるという。

「クマが食べるのは木の実や木の葉など、90%以上が植物です。そのため日本のように四季のある国では、冬になるとエサがなくなってしまう。その期間を飢餓に陥ることなくやり過ごすために冬眠するのですが、逆にいうと、エサさえあればクマは冬眠する必要がないともいえます」(同)

 実際、動物園やクマ牧場などでは、エサを与え続けることで冬でも活動させる飼育法が以前から取られている。

「捕獲数の増加はもう一つ、それだけクマが人の生活圏に近づいていることを意味します。今年の秋はドングリが凶作に見舞われましたが、その影響で里山や市街地に行けば、エサが大量にあることを新たに学んだクマは多い。例えば、果樹園で放置されたリンゴや庭先で手つかずのまま枝に実った柿。あるいは人間が日々廃棄する残飯なども全てエサとなり、クマから冬眠の必要性を奪う要因になっています」(同)

空き家や車庫で“冬眠”

 今年4~10月のクマによる死傷者は196人(速報値)と、環境省が統計を始めた2006年度以降、最悪のペースで推移。内訳を見ると、10月だけで88人が被害に遭い(うち死亡は7人)、今秋以降、クマと人の距離がかつてないほど近接していることを裏付ける。

「今後も、冬眠するすべを知らない反面、エサのある場所を知った子グマなどが人間の生活領域のすぐそばを徘徊する可能性は高いでしょう。さらに注意を要するのは、エサにありつけなくなった幼獣が穴の代わりに、空き家や納屋、車庫といった人が普段あまり出入りしない場所に潜り込んで冬眠するケースです。そういった不測の事態にも、今年の冬は備える必要が出てくるかもしれません」(大井氏)

 駆除するほど、新たな危機が発生するという皮肉。今年は冬になってもクマ対策を続けざるを得ないことになりそうだ。

週刊新潮 2025年12月18日号掲載

特集「12月なのに各地で出没…冬眠しない『子グマ』が増加中のナゼ」より

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