松岡昌宏「日本テレビこそコンプライアンス違反では」の指摘を専門弁護士はどう見るか

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 タレントの国分太一の「コンプライアンス違反」問題は、新たな局面を迎えている。長年、TOKIOで苦楽を共にした松岡昌宏が、「週刊新潮」の取材に答え、これまで語られていなかった事実を語ったのだ(関連記事:【初激白】松岡昌宏が語った、国分太一への思いと日テレへの疑問 「日本テレビさんのやり方はコンプライアンス違反ではないのか」)。

 その詳細は関連記事に譲るとして、松岡が語った中で多くの共感を得たのは「日本テレビの今回の対応もまたコンプライアンス違反ではないのか」という問題提起だろう。

 国分と日本テレビの言い分は異なる点もあるが、以下の点では一致している。

・国分は会合の主旨を知らないまま日本テレビに呼び出された。

・その場でいきなり事情聴取が行われた。国分に弁護士などが同伴する機会は与えられなかった。録音も禁じられた。

・そこで国分が口にした行為を日本テレビは「重大なコンプライアンス違反」と認定して、番組降板を即断した。

・国分側(事務所も含む)には、何が違反とされたのかについては当時も今も一切明かしていない。日本テレビは「関係者保護のため」なので絶対に明かさないとの立場を崩していない。

 国分に対して厳しい見方をする人は、「なんにせよ本人が何らかのハラスメント行為に思い当たるフシがある以上、ガタガタ言うべきではない。当然の報いと思って反省すべし」「不当だと思うなら日本テレビ相手に裁判を起こせ」といった意見をSNS上やヤフーニュースのコメント欄に書き込んでいる。

 その日本テレビの公表している「意見書」(日本テレビガバナンス評価委員会)によれば、問題の行為は、以下のようなものであるという。

「日本テレビが掲げる人権方針・コンプライアンス憲章に明確に抵触し、到底看過し得ない程度であり、(略)十分番組降板の理由となり得るものである」

 そう言われれば、大変なことだと誰もが感じるように書かれているのだが、一方で国分の行為は犯罪などにはあたらないともいう。

日本テレビの対応を評価する「意見書」

 そもそもこの「意見書」自体、お手盛りとの批判を招いても仕方がないつくりになっているのは事実である。

 説明があまりに要領を得ないのだ。象徴的なのは今日の混乱の原因となっている福田博之社長の会見に関する評価。「意見書」の記述を見てみよう。
 
「会社を代表する社長が説明し、質疑を受けるという姿勢を示すことを経営陣において決断したことは評価に値するし、本事案に対する日本テレビとしての受止め方を社長による会見という形で示したものと思われる」

 簡単に言えば「社長自ら出てきた姿勢は評価できる」としているわけだ。短時間のぶら下がり会見だった点についても、次のように“理解”を示している。

「昨今の会見事例を見るに、かなりの長時間に及び、質疑応答が堂々巡りとなり、何ら新たな情報・事実が提供されない事態が続く場合や、取材する側の言動等が批判的に取り上げられ、会見そのものに対して懐疑的な見方がされる場合があるなど、会見を取り巻く情勢が変化しつつあることなどに鑑みれば、『ぶら下がり』形式を選択肢の一つと考えることはやむを得ないところと思われる」

 こちらも簡単にまとめると「フジテレビみたいに長時間会見で不毛なやりとりが続くと、結局日本テレビが傷つくことになる。だから、ぶら下がりも仕方ないよね」ということである。

 誰もが気付くのは、この場合の「仕方ない」は、あくまでも日本テレビの企業防衛を重視した観点での見解であって、報道機関としての日本テレビという観点によるものではない。常識的には報道機関であれば、会見を開くとした以上、いかにみっともなくともフジテレビのようなロングラン会見をした方がまだ一般的には評価を得られるだろう。

被害者の真意も不明なまま

 日本テレビはこの「意見書」をもって、外部の人も対応を評価してくれているという立場のようだが、いささか説得力に欠けると言われる余地はありそうだ。

 また、被害実態がまったく不明であるため、被害を受けた側が求めていた処罰、その妥当性もまったく分からないままである。国分の社会的抹殺につながるような会見を社長自らが行うことを望んでいたのか。
 
 多くの疑問が残っている現状において、日本テレビの「判断にも会見にも対応にも手続きにも問題なし」という主張には松岡ならずとも疑問の声が上がるのは当然だろう。「答え合わせ」を求める国分側は、日弁連に人権救済の申し立てを行っている。

 社会学者の古市憲寿氏は、情報番組「旬感LIVEとれたてっ!」(関西テレビ・フジテレビ系)に出演した際に、次のようにコメントした(大意)。

「殺人であっても、被告は弁護士を立てるなどの防御権を行使できる。日本テレビは国分さんの防御権を奪ったまま、一方的に処分を下したようなもの。裁判でいえば、理由なく死刑判決を下したようなもので、日本テレビの手続きはコンプライアンス違反ではないか」

専門家も手続きを疑問視

 数多くのハラスメント案件を扱ってきて『パワハラ問題―アウトの基準から対策まで―』などの著書や関連論文がある弁護士、井口博氏も日本テレビ側の手続きに疑問を呈する。

「自分が担当している案件ではないので、報道ベースでしか分かりませんが、日本テレビの対応には問題があると思います。
 ハラスメントに限らず、法的にいえばある人に不利益な処分をするときには『告知』(なぜそのような処分をするかという理由を伝える)と『聴聞』(その上で本人からの弁明を聞く)を行うことが大原則です。
 今回、この点で『告知』は十分ではなく、『聴聞』に当たる事情聴取には手続違反があるようです。
 日本テレビの対応は出演者に対するパワハラともいえるでしょう。
 これらの点からすると日テレの対応は人権侵害の可能性があると思います」

 井口氏は、国分側が日弁連に人権救済申し立てを行ったことにも理解を示す。ただ、それが起死回生の策となるかは不透明だ。

「人権救済の申し立ては非公開なので、結局、日本テレビがどういう反論を出したのかが分からないままであるのと、日弁連の結論が出るまでに事案によっては1年近くかかることや、日弁連の出した結論に従う強制的な義務がないので実効性には限界があります」
 
 日本テレビの「コンプライアンス憲章」には以下のようにある。
 
「私たちは、視聴者・国民の意見、批判に誠意をもって対応し、誠実なコミュニケーションを通じて、一層の満足と信頼をいただけるよう努めます」
 
「私たちは、取材・番組制作・放送に関係する法人や個人、広告主・広告代理店、その他の取引先に対し、誠実に接するとともに、節度ある健全、良好な関係を保ち、不公正な決定、便宜供与、取引は行いません」

 果たして現在の対応は、これらコンプライアンス憲章にあてはまるものなのだろうか。

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