微笑ましいご近所SFコメディーかと思いきや… 中盤からガラリと変わった注目ドラマ
エスパーになれるとしたら、どんな能力が欲しいか。今の私は在宅介護で実家通いに往復3時間強かかるので「テレポーテーション」、愛猫が病気なので「ヒーリング」かな。そんな利己的な使い方では、大切な何かを失うか、大きな代償を払うのだろう。
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このドラマに出てくるエスパーたちは世界を救うというが、任務がなんというかさまつ。ついでに彼らの超能力も、なんというか微力。そんな「ちょっとだけエスパー」は、微笑ましいご近所SFコメディーと思いきや、中盤で急に重力と深度が増してきた。脚本の底力だね。
主人公の文太(大泉 洋)は会社に長く勤めたが、経費横領の難癖をつけられて、退職に追い込まれた。過去10年分の経費返還請求で貯金は吹っ飛び、妻とも離婚。再就職も難航、絶望していたところで、「NONAMARE」なる会社に拾われた。
社長の兆(きざし/岡田将生)は謎の薬を1錠飲めば合格、と半ば脅迫。この薬はちょっとだけエスパーになれるという。日々送られてくる指令をこなすこと。そして、夫が事故で亡くなって記憶障害のある四季(宮崎あおい)の夫のフリをして生活することも業務だと説明する兆。
さらにルールが二つ。エスパーであることは誰にも知られてはならない。そして人を愛してはならない。文太は触れると心が読めるテレパスに。任務は意味不明なことが多く、四季を好きになってはいけない葛藤もあれば、四季をだまし続ける良心の呵責(かしゃく)もある。タスクが意外と多くて大変よね。
同僚エスパーに、動物や虫と通じ合うことができる半蔵(宇野祥平)や念じれば人肌程度に温めることができる円寂(えんじゃく/高畑淳子)、花を咲かせることができる桜介(おうすけ/ディーン・フジオカ)がいる。実は全員が脛に傷持つワケアリ人材。人生どん底経験者で、前科持ちや元受刑者だったことが分かる。
岡田演じる兆の冷酷無比さと有機物離れしたAI感が気になってはいたのだが、その謎が第6話で明かされた。兆は未来の人間で、実体は2055年に。過去にリモートで映像を飛ばしているっつう(妙に納得!)。10年後に起きる大惨事から1万人の命を救うための任務というが、そもそもなぜこの四人を選んだのか。そこに透けて見える未来人の選民意識や命の選別には鳥肌が立つ。残酷な設定だ。
兆が課す任務に疑義が生じ始めたのは、若いエスパーたちが登場したからだ。
未来の自分とつながっている大学生・市松(北村匠海)、桜介の実の息子・紫苑(しおん/新原泰佑)、兆の下で働いていた親友(小島藤子)が死んで、エスパーになる薬を託されていた九条(向里祐香)の三人だ。彼らは10年後に1000万人が死ぬという情報もつかんでいて、兆を「敵」と見なしている。
さらには、四季の記憶も混乱し始めた。事故で死んだ夫が兆だったことも判明し、文太は兆を信じていいのか不安になってきて……。
良質なSFで、登場人物の情の脆さや業の深さが濃いめに抽出される構図も魅力的だ。微力がたとえ無力に終わっても、彼らの尽力をたたえたい気分にさせる。








