“4523人分の冬のボーナス”が一瞬で奪われた「3億円事件」捜査の裏側…「ジェラルミンケースに万札が並んでいた」ワケではなかった!

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 では、捜査の経緯についてはどうか。前出の資料にはこうある。

〈本件発生と同時に、都内一円に緊急配備を敷いたが、犯人補足には至らず、モンタージュ写真を作成するなどして全国に手配した。また、現場からは偽装白バイをはじめ62点の遺留品が発見され、遺留品からの追跡捜査、前科前歴者の洗い出し等を重点に、捜査人員延べ17万1805人を投じて捜査を推進したが、逮捕には至らなかった〉

 付け加えると、延べ捜査日数2555日。捜査費用は約10億円、12万人近い捜査対象者を調べたが、事件から時効までの7年間に、犯人を捕まえることはできなかった。

 3億円事件には、主に4つの現場がある。まず、現金が奪われた府中市の府中刑務所裏の通称「学園通り」が第一現場。ここでは白バイや発煙筒などの遺留品があった。第二現場は第一現場から1.3km離れた国分寺市の武蔵国分寺跡。ここで犯人は現金輸送車を乗り捨てている。そして事件から4か月後の昭和44年4月、小金井市本町の団地の駐車場に長期間、放置されていたカローラのトランクから空のジェラルミンケースが3個発見された。第二現場で乗り換えた車と見られている。そして、見張り用に使用されたとみられるカローラが発見された、府中市内の空き地。ここは事件当日の早朝、エンジンのかかったバイクが停まっていたとの目撃情報もあった。

 それぞれの現場に遺留品があり、その総数は120点にもなった。このため、大部分の刑事たちは、解決は早いと踏んでいたという。しかし、

「緊急配備を敷いた……とはいうものの、警視庁が事件を把握し緊急配備を敷いたのは、発生から約20分後の午前9時43分でした。現金輸送車から発煙筒の煙が出ているのを見て、爆発したと思った行員たちは、近くのガソリンスタンドから支店に電話を入れ、刑務所の裏で検問を受けたると報告しています」(前出・OB)

 支店はすぐに警視庁に「ウチの輸送車が検問を受けているそうだが、何かあったのか」と問い合わせる。通信指令室が照会をかけるが、該当者(車)はナシ――こんなやり取りをしている間に、時間が経ってしまった。

 資料の〈反省・および教訓〉にはこうある。

〈本件の捜査を通じ、機動力、通信力等警察の総合運用による捜査の初期段階における検挙活動の強化を図る必要が認められたため、機動捜査隊の拡充強化のほか、緊急配備の改善と通信指令室の強化及び無線自動車等の効率的運用を図った〉

 緊急配備を例にとると、警視庁はパトカー631台、9500人の警察署員だけでなく、機動隊の応援も含め、約1万人で包囲網を敷いた。通行中の全車両を止めて検問せよ、との指示も出たが、各地で渋滞が起き、午後には撤回された。

 現在の緊急配備態勢は、全署の管轄区域で行う全体配備。事件発生地点を中心に、5キロ、10キロと範囲を指定して行うキロ圏配備。事件発生署の管内だけで行う自署配備。高速道路や有料道路の料金所、駅の改札、空港など重要地点で行う要点配備――などに細分化されただけでなく、他県管内の発生事案に対し、県境の警察署が対応する広域外周配備。逆に他県警に配備を依頼する広域緊急配備の体制も整った。

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