「神田伯山」の大活躍に“弟子ながら感心”と目を細める「優しい師匠」 「頑張ってやってきた甲斐がありました」に込められた重みとは
弟子に優しく自分に厳しい
他人に厳しく、自分に甘いのはどの世界でも共通だが、師匠はその真逆で弟子に優しく自分に厳しい。とくに芸に対する姿勢、言葉には唸らされる。例えば、
「道楽商売をやっているんだから、つねにときめきだけは失わないようにしたいですね。芸の厳しさに挑戦し続けるのもときめきです」
まさに名人の至言! 今も台本は棒線や書き込みでいっぱいだという。
そして、芸事でさらなる上を目指す人にとって胸に響くのが次の言葉。
「『発展のないところに伝統はない』という格言があります……時代は変わりますし、自分のキャリアや肉体も変わるわけですから」
そんな教えを守っているのが愛弟子の伯山だ。彼は新作をおどけてやっていると思っている向きも中にはいると思うが、標榜しているのは師匠と同じ、古典の連続もの。
ここからが本題の師弟愛である。その関係は、微笑ましいの一言に尽きる。
人気者の伯山は普段から「うちの師匠は優しい」と口にしているのだが、これに対して師匠はこう言った。
「『男は優しくなければ生きている資格がない』というのがレイモンド・チャンドラーの名言です。伯山は何かというと、『師匠、師匠』と相談してきます」
師匠は孝行息子ならぬ孝行弟子を「あの子」と呼ぶことも多い。師弟で小学生相手に高座をやったことがあった。伯山が受け狙いの新作ものではなく、古典ものをやったのだが、ドーンと受けたという。
「つかみがうまいんでしょうね。あの子のような講談師を見たことはなかったですね。天才なのか、あの子が人知れず努力をしているのかわかりませんが、自分の弟子ながら感心してしまいました」
「頑張ってやってきた甲斐がありました」
とにかく、伯山のことをよく見ている。
「元々講談は連続ものがバックボーンにあるとの私の主張を継承して、松之丞(現・伯山)がやるようになった。それに彼のパワフルな講釈と演技があって若い人に響いたのでしょうね」
「伯山も勉強しながら工夫しています。私が教えたネタを最初は教わった通りにやりますが、だんだん自分のものに替えていく。そして最終的に個性で自分の芸を作りあげるのです」
そして、「彼の功績は大きい。業界が栄えると講釈師一人一人に影響する。最近は講談界が蘇って、活力が備わってきました」と褒めそやすのである。
松鯉師匠の心境はというと、こうだ。
「数年前まではこんなもんで終わるのかなと思っていたけど、頑張ってやってきた甲斐がありました」
「もっといきましょうよ」と勧められる、松鯉師匠との一献が楽しみになる。
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