“マンガ界の黒船”のはずが…韓国発「タテ読み漫画」はなぜ日本に根づかないのか? 「異世界転生ものには合うけれど、バトル漫画には不向き」と評される理由

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日本人には縦スクロールが読みにくい

 そもそも、日本人には慣れ親しんでいた従来の漫画のフォーマットが読みやすく、縦スクロールの画面に適応するのが難しいという意見もある。デメリットが少なくないため、自然に淘汰されているのではないかと、WEBコミックなどで連載をもつ人気漫画家のC氏が話す。

「Webtoonは画面をスクロールするのが意外に面倒で時間がかかるのですが、その所要時間に対して、漫画の展開が遅いという“タイパ”の面で弱点があります。日本語の書き方がそうなのですが、日本人の頭脳は“横に進む”ように特化しており、“縦に進む”ものに適応しにくいという意見がありましたが、Webtoonが受け入れられないのはそのためかなと」

 日本のコンテンツ産業の市場規模は3兆円をゆうに超え、出版社も大きな利益を上げている。しかし、アニメ化されるなどしてヒットしている漫画は、従来の横読みの漫画ばかりなのだ。既出のB氏が言う。

「結局、昔ながらのスタイルの日本の漫画の方が、自由な表現ができるということなのでは。どうしても、Webtoonは大量の登場人物を出しにくいとか、大胆な構図をとることができないなど、制約が多すぎる。恋愛ものや異世界転生ものならWebtoonでもやりやすいのですが、『ドラゴンボール』のようなバトル漫画には不向きといわれています」

マーケティングに依存しすぎている

 Webtoonに参入している企業は、振興のIT系の企業が多い。こうした企業は、漫画の制作にまでマーケティングの手法を導入しすぎている点が、問題だとする指摘もある。読者に受けるタイトルから、キャラの表情や顔のアングルまで、データやAIを駆使して分析している企業があるが、「そのせいで、似たり寄ったりな作品ばかりになっている」と、C氏が言う。

「日本の漫画が爆発的なヒットを出せているのは、少数精鋭で作っているためだという説もあります。Webtoonは多くの人が関わっているわけですが、集団になればなるほど、実験的な表現を試すのが難しくなると思うんですよ。マンネリ化してしまう要因はそこにあるのでは。今後、Webtoonは生成AIなどを使って、製作費をかけない形で生き残っていくしかないのではないかと思います」(C氏)

 海外で流行っているものをすぐ真似したくなるのは、飛鳥時代にも、安土桃山時代にも、明治時代にも行われてきた日本人の性のようなものであろう。しかし、日本には独自に進化した従来の漫画があり、そのスタイルが世界中のファンを掴んでいることを忘れてはならない。

 3年ほど前には、筆者の知り合いの経営者にも、投資関連のコンサルから「Webtoonに出資してほしい」と勧誘があったと聞く。筆者の私見であるが、新しいものを進化させるのは海外に任せれば十分だと思う。日本企業は流行りものに投資するよりも、従来のスタイルを極めたり、才能あるクリエイターに積極的に投資したりするほうが得策だと思うのだが、どうだろうか。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部

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