「本気の舞台を受け止めてほしい」 “浪曲界最大のイベント”でトリに抜てきされた「29歳浪曲師」が明かす覚悟

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「本気の舞台を受け止めてほしい」

 年に1度の浪曲界最大のイベント「豪華浪曲大会」が、今月28日に東京・日本橋公会堂で開催される。

 58回目の今回は、興行名が「一期一芸(イチゴイチゲイ)」。東西から多くの若手が参加する中、トリに抜てきされた国本はる乃(29)が意気込みを語った。

「昼の部は、現在103歳ながら現役の曲師(三味線奏者)である玉川祐子師匠が浪曲コントに挑戦します。他にも戯曲『瞼(まぶた)の母』を掛け合い浪曲で披露するなど、曲師と浪曲師が一緒になって、これまで取り組んだことのない“三味線大合奏”を楽しめます」

 更には、昨年12月に人間国宝に認定された関西の浪曲親友協会会長の京山幸枝若(71)や、日本浪曲協会会長で浪曲親友協会理事も務める天中軒雲月(71)といった、東西の大御所による競演も見どころだ。

「全体的にかなりバラエティーに富んだ構成になっています。私がトリを務める夜の部は、芸歴15年以下の若手全員がネタ下ろしをする予定。これまで、どの舞台にもかけたことのない新作から大ネタまで披露するほか、ギターと三味線のセッションという異色な取り合わせも。私たち、若手浪曲師の本気の舞台を受け止めてほしいですね」

20代最後の大舞台

 国本が披露するのは、カリスマ的な人気を誇りながら、10年前に55歳で急逝した国本武春が十八番とした「佐倉義民伝 甚兵衛渡し」という作品。無論、今回が初めての挑戦になる。

「私は浅草木馬亭での浪曲定席ですら、トリを任されたことがありません。いまからものすごく緊張していますが、私にとっては20代最後の大舞台でもあります。大役ではありますが、任せていただいた以上、いまの自分にできる限りの力で、全力で務めたいと思います」

 昭和初期には3000人を超える浪曲師が活躍し、落語や講談よりも人気があったとされる。戦後以降はやや低迷が続いたものの、幸枝若の人間国宝認定に加え、今年1月には、玉川太福(だいふく・46)が新宿・末廣亭でトリを務めて話題を集めた。浪曲師が落語定席でトリを取ったのはおよそ60年ぶりで、この快挙が浪曲人気の復活を象徴しているといわれる。

9歳で浪曲界に

 さて、国本が浪曲と出会ったのはわずか9歳の時だった。小学4年生にして、武春の実母で浪曲師の国本晴美の門をたたいたという。

「最初は三味線を習おうと思って行ったけれど、まだ手が小さくて、三味線の棹をうまくつかめなかったんです。それで師匠に“それなら浪曲をやってみようか”と言われて取り組み始めて。中学、高校に入ってからもずっと続けて、17歳の時に正式に入門しました」

 今年で芸歴20年を迎える国本の「名披露目(なびろめ)」は20歳の時。当時は“最年少浪曲師”の誕生と伝統芸能の世界で話題を集めた。名披露目とは、落語界でいう「真打披露興行」に相当する。

 浪曲界には落語や講談のように「前座」という呼び名はあるものの、「二つ目」「真打」といった階級制度はない。名披露目興行を済ませると、その後は落語や講談の真打のように、師匠の下を離れた“一本立ち”と見なされる。

「浪曲には決まった楽譜がありません。自由自在な話芸ですが、そこが難しくて実に面白い。うなって語れる、こんなぜいたくな芸はほかにないでしょう。浪曲の素晴らしさを、もっと多くの人に知っていただきたいです」

 テレビでも活躍する、売れっ子講談師の神田伯山(42)は、国本を「演芸界の宝になる」と高く評しているという。こぶしを利かせ、情感たっぷりにうなり語る国本を、お茶の間で目にする日は近いかもしれない。

週刊新潮 2025年11月13日号掲載

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