「踊る」超え1位へ “駄作”との評もあった「国宝」が業界の予測を吹き飛ばし、空前の大ヒットになった本当の理由
「本物志向」も満足
リピーターが多いということは話題性・満足度が揃っていることを意味する。劇中に伝統芸能である歌舞伎の美しい舞台描写があるため「本物志向」を満足させる要素もあるのだろう。
「高齢層には過ぎ去った人生への郷愁と伝統文化の経験が、若年層には未知の世界への興味喚起がそれぞれ働いているようです。また、制作スタッフ・キャストも実力派が揃っており、吉沢亮、横浜流星、渡辺謙のほか、まさに歌舞伎の家系である寺島しのぶといった顔ぶれにも説得力がありますね」(同)
一部では原作小説で描かれた人物の描写が足りないなどとして“駄作”との指摘も出ていたが、駄作が歴代興収1位という大記録を成し遂げるはずがない。映画史を塗り替えるほどの魅力があるからこその歴代1位なのである。
「映画は必ずしも原作どおりである必要はありません。実際、吉田修一氏と李相日監督のタッグは2010年の『悪人』、2016年の『怒り』に続く3作目で、李監督に寄せる吉田氏の信頼は厚い。人物描写の細部を削ることで、その分、映像への大胆な振り分けを行う手法もあります。
『国宝』の撮影を務めたソフィアン・エル・ファニ氏はチュニジア出身の撮影監督。撮影を担当したフランス映画『アデル、ブルーは熱い色』(2014年)は第66回カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルムドールを受賞しています。
最後に歌舞伎の舞台撮影の長回しが登場しますが、カメラが歌舞伎役者から見た客席を生々しく映し出しています。歌舞伎という伝統芸能の凄まじい迫力を感じさせるスペクタクルな撮影手腕は見事で感動的でした。このシーンは何回見ても飽きません」(前出の映画ライター)
この勢いで興収200億円突破まであるのか――。
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