トランプ氏の「30万円バラマキ政策」は奏功するか 新しい“邪悪な敵”NY市長の「民主社会主義」が大化けする可能性
トランプ氏にとって格好の標的
ワシントンポストが8月、MAGA(米国を再び偉大に)は6つの主要派閥で構成されていると報じたように、トランプ氏の支持基盤が揺らいでいることも心配の種だ。
「米国優先主義」に基づくキャンペーンを通じて形成されたMAGAにまとまった組織はないため、内部分裂が激化する可能性は排除できないだろう。窮地に追い込まれつつあるトランプ氏に残された手段は、「邪悪な敵」をつくり、自陣の引き締めを図ることだ。
そこに格好の「標的」が現れた。4日のニューヨーク市長選挙で勝利したゾーラン・マムダニ氏だ。マムダニ氏について、トランプ氏は早速「狂った共産主義者」などとレッテルを貼り、ニューヨーク市への連邦資金凍結などの対応をほのめかしている。
ウガンダ生まれのインド系イスラム教徒であるマムダニ氏は、多様性を体現すると言っても過言ではない人物だ。マムダニ氏の当選は米国中に衝撃をもたらしたばかりか、グローバルサウスを始め世界各地で反響を呼んでいる。
トランプ氏の痛いところを突いた公約
マムダニ氏の当選で民主党内の分裂がさらに進むとの懸念が生じているが、筆者はマムダニ氏が米国政治に新風を持ち込むのではないかと考えている。
マムダニ氏の主張の要諦はアフォーダビリティー(手の届く生活コスト)だ。これを実現するため、0~3歳児保育の無償化や通勤バス代の完全無料化、家賃規制住宅100万戸の値上げの凍結などを公約に掲げている。
これらの公約を実現するのは困難だとの声が早くも出ているが、インフレ退治に失敗しているトランプ氏の痛いところを突いていることはたしかだ。
マムダニ氏の政治信条(民主社会主義)についても解説が必要だ。
民主社会主義とは、民主主義の下で社会主義的な政策(資本主義の弊害を是正する政策)を行う政治思想のことであり、かつての共産圏諸国のような体制を目指すものではない。米国ではなじみの薄い思想だが、英国の労働党が1950年代に唱え始め、西ドイツ(当時)の社会民主党がこれに続き、日本ではかつて存在した民社党が党是としていた。
米民主党に浸透するか「民主社会主義」
マムダニ氏は外国生まれであるため、大統領になる資格を有していないが、彼の主張・運動は大化けする可能性があると筆者は思う。
マムダニ氏の支持母体は「米国民主社会主義者(DSA)」だ。社会主義への抵抗感が強い米国で8万人の会員を擁しており、草の根の支持を強みとしている。米調査企業ギャラップの調査では、民主党支持者の66%が社会主義を好意的に見ており、MAGAが共和党を乗っ取ったように、DSAが民主党の主流になるのは時間の問題なのかもしれない。
マムダニ氏の登場により米国政治の左右の分断が広がるとの見方が一般的だが、市場への介入という点ではトランプ氏も同様だ。
トランプ氏は6日、米国内の薬価引き下げに向けて米イーライ・リリーとデンマークのノボノルディスクと合意した。7日には牛肉価格が記録的な高値となっている状況を踏まえ、司法省に対して食肉加工企業への調査を指示するなど、生活費を引き下げるため、民間企業への圧力を強める一方だ。
米国でもアフォーダビリティーが政治の基軸となる時代が来るのではないだろうか。
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