日本国民に残された猶予は短い…? 「高市政権」に課された“安倍元首相の宿題”2つの論点
「財政規律の遵守」のカギは「ドーマー条件」
この数年間、政府は「物価高対策」として価格統制や給付・減税などの政策を繰り返してきた。しかし、全ての世帯を対象とした政策は巨額の財政資金を要し、長引く物価高への対策としては持続性を欠く。
欧州諸国では、コロナ対策やウクライナ戦争後の高インフレを経て、給付や補助といった政策は一時的な措置として早期に打ち切られている。これとは対照的に、日本では、物価高対策が「恒久的な支援」に転化しており、財政余力を家計支援に費やす構図が続いている。
財政支出の拡大はやがて金利上昇を通じて国債費の増大を招く。高市首相は「政府債務残高・GDP比」を引き下げることで財政規律を遵守する考えを明らかにしているが、その際にカギとなるのが「ドーマー条件」だ。
ドーマー条件とは、政府が支払う利払い率が経済成長率を下回る状態を指す。この関係が維持されれば、金利負担が経済の拡大に吸収され、債務比率は安定する。だが、金利が経済成長率を超える場合、利払い費がかさんで債務比率は雪だるま的に上昇する。
今のところ日銀が金利を低く抑えているため、ドーマー条件は満たされているが、このまま日銀の利上げが進むと、2030年前半には国債の平均利払い率が経済成長率を上回るというのが筆者の見立てである。債務が膨張するまでに政府に残された猶予期間は短い。
市場の信認が損なわれれば、金利上昇と円安が進み、インフレ圧力と財政制約がともに強まる悪循環に陥る。そうなると、政府は緊縮財政を強いられ、結果として成長投資どころか、教育・福祉などの予算を削減せざるを得なくなる。家計支援の名を借りたばらまき型の財政がかえって国民生活の基盤を損なう事態が懸念される。
断片的にしか実施されなかったアベノミクス下の構造改革
現在の経済環境の根底には、アベノミクス以降の政策構造がある。
2010年代初頭から、安倍政権は金融政策・財政政策・構造改革の「三本の矢」で長期停滞からの脱却を試みたが、潜在成長率は伸びなかった。異次元緩和は今なお十分な軌道修正が図られておらず、円安を通じて物価を押し上げている。
財政の面でも、経済対策が実施された後の健全化目標は繰り返し先送りされ、財政余地は狭まるばかりである。当初「看板政策」に掲げられていたはずの構造改革も断片的にとどまった結果、わが国の生産力は停滞し、供給制約によるインフレが生じている。
こうした経緯を踏まえれば、高市政権はアベノミクスが残した宿題に真正面から取り組み、インフレ耐性を備えた「真に強い経済」を構築するべきである。
政権が掲げる戦略分野への投資は、生産力を増強させる点で正しい方向性を示している。こうした投資が成果をあげるためには、供給面や財政面の制約を乗り越える工夫が欠かせない。
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