労働生産性が「ぶっちぎりで低い」日本 それなのに最低賃金を上げれば永遠に成長できない国になる

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どんどん下がっている日本の名目GDP

 この労働生産性の低さが、GDPの低迷にもつながっている。日本はかつて、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国だった。ところが、名目GDPは2010年に中国に抜かれ、2024年にはドイツにも抜かれ、まもなくインドにも抜かれようとしている。

 この5年間における、日本の一人当たりの名目GDPの推移を見てみたい(データはIMFより)。円換算にして、2021年が440万7205円、22年が448万1467円、23年が475万4988円、24年が491万9123円、25年が506万5193円。5年間の上り幅は15%近くになるものの、これがドル換算だと、21年が4万155ドル、22年が3万4080ドル、23年が3万3845ドル、24年が3万2498ドル、25年が3万3955ドル。反対に15%以上も下がっている。円安のせいで成長分も相殺され、日本の名目GDPが相対的にどんどん下がっているのがわかる。

 ちなみに、2024年に名目GDPで日本を抜いたドイツはどうか。ユーロ換算だと、21年が4万4190ユーロ、22年が4万7183ユーロ、23年が4万9524ユーロ、24年が5万819ユーロ、25年が5万1918ユーロで、伸び率は17%強。日本より若干いい程度だが、これをドル換算にしても、21年が5万2300ドル、22年に4万9725ドル、23年に5万3565ドル、24年に5万4989ドル、25年に5万5911ドルと、成長を遂げている。

 極度の円安を許容しているうちに、日本の経済力が世界のなかで相対的に下がっているのがわかる。つまり、現在の日本で労働生産性が低いのは、円安のせいでもある。だが、円安という逆境にあるならなおさら、日本は世界でもトップクラスの労働生産性を獲得しないかぎり、経済成長はおぼつかない。

ワークライフバランスを捨てる必要も

 現在、低い生産性を放置したまま、「働き方改革」のかけ声のもと、労働時間がどんどん短縮され、仕事が終わらなくても、もっと働きたいという意思があっても、規定の時間を超えては働けないようになりつつある。その状況で賃上げし、最低賃金を上げれば、人件費率の上昇に反比例して、生産性はどんどん下がってしまう。

 自民党の高市早苗新首相は「私自身がワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて、働いて、働いて、働いて、働いて参ります」と発言し、「国民に長時間労働を強いるのか」と批判を浴びた。

 筆者が高市新首相をどう評価するか、ここでは触れないが、この発言だけは悪くなかったと思っている。一国のトップ(になりうる人物)が遮二無二働く姿勢を見せることは、労働力の低い日本人の生産性を上げるためのモデルになりうると考えるからである。

「ワークライフバランスは維持しながら、働くべき時間内は働き倒します」といえば、批判は浴びなかったのかもしれない。しかし、ある時期、時間も忘れるくらい必死で働かないかぎり、仕事のスキルは身につかないし、スキルが身につかなければ、中身の濃い仕事を効率よく進めることもできない。ワークライフバランスとは、中身の濃い仕事を効率よくできるようになって、はじめて実現できるはずである。

 最近はいきなりワークライフバランスを主張する新入社員も多いが、それが許容される状況では、日本の労働生産性は永遠に上がらないだろう。いまの状況を放置したまま、最低賃金を上げ続けるということは、日本の成長の芽を摘み続けることにほかならない。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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