「W杯出場も、海外経験もないのに…」と選手からバカにされた森保監督 「ブラジル撃破」までの7年間 「海外組がホテルを出る時は玄関まで見送る」サラリーマン的マネジメント
モチベーター
森保監督は、卓越した指導者というより、優秀なモチベータータイプである。
前出の久保は、2022年のカタールW杯の際、決勝トーナメント1回戦のクロアチア戦の前、突如発熱に見舞われ、欠場を余儀なくされた。すると、森保監督は、試合前、わざわざ宿舎の久保の部屋にお見舞いに出向いている。久保は後に記者に述べている。「部屋のベルが鳴ると、出たら監督でした。僕の風邪がうつるからと言ったけど、監督は“大丈夫”と言って…部屋に入って必ず帰ってくるからと話してくれた」。この時点では、コロナやインフルエンザ感染の恐れもあった。この件を森保本人に問うと、「うつるうつらないじゃなくて、単に見に行っただけ」と“通常運転”を装うが、この一件以降、これまで「俺様」だった久保の姿勢に変化が見られたのは、代表にとって大きなプラスとなった。
先のキリンチャレンジカップでは、これまでチームの主将を主に務めてきた遠藤航が負傷で招集できなかった。そこで、森保監督がキャプテンに指名したのが、南野拓実。その南野は、ブラジル戦で前半に2失点する苦しい展開の中、ハーフタイムに叫んでいた。
「“このゲームはまだ死んでいない!”と。南野はブラジル戦の前、前半0-0もしくは0-1で乗り切れば勝つチャンスがあるとも言っていた。想定外の前半でしたが、それでも下を向かなかった。南野は泥臭さとは無縁のイケメンで、どちらかと言えば斜に構えたタイプ。自分の気持ちを前面に出す姿勢はこれまで感じませんでしたが、その彼が先頭に立って檄を飛ばしていた。主将に任命されたことで何かが変わったのでしょう」(同)
そして後半に入り、反転攻勢を告げる1点目のゴールを決めたのも、その南野であった。
「選手たちにやる気を出させる手法が実に巧みです」(同)
森保氏は、日本のサッカー界では珍しく、高卒たたき上げの指導者だ。長崎日大高校卒業時は無名の存在で、マツダに入団後も、Jリーグの創設前には関連会社で3年間のサラリーマン経験を積んでいる。「今からでもサラリーマンが出来る」と本人は言うほどだが、その経験は確実に生きていると言えるだろう。
長友と長谷部
出場国で一番乗りを果たした今W杯最終予選時でも、人事が光った。森保監督は2022年カタールW杯の際は、アジア最終予選で大苦戦。解任の可能性が報じられたほど苦しんだ。「2度と同じ失敗はしたくない」と、今回の北中米W杯最終予選の前の昨年3月に、チームの熱量上昇の「ジョーカー」として決めたのが、長友佑都の代表復帰だった。
「これも結果的に功を奏しました。W杯に4回出場と経験豊富な長友は、ラテン系の性格もあって、チームのムードメーカーになりましたし、若手選手への“重石”にもなった」(同)
これに加えて昨年8月、チームの引き締め策として取ったのが、元日本代表主将・長谷部誠のコーチ招聘である。
「長谷部本人は、古巣のドイツ・フランクフルトで指導に当たり、代表コーチ入りは噂にすら出ていなかった。声がかかった時は本人も“冗談か?”と思ったそうです。一方の森保監督は、“本気でしたよ。ずーっと前から決めていました、ハセ(長谷部)には一本釣りでオファーをしました”と胸を張っていましたが」(同)
その長谷部は、日本代表でのキャプテン出場試合数は歴代1位。「カイザー(皇帝)」とあだ名されるように、強烈なキャプテンシーが持ち味だった。就任後も早速、「彼に厳しいことを言えるのは自分しかいない。バックパスが多すぎる」と、長友のプレーについてダメ出ししたことを明かしている。
また、その前の2023年にコーチに就任したのが、元日本代表の10番、名波浩氏。彼はサッカー関係者の間で「ジャイアン」と呼ばれるように「番長気質」で有名だが、その名波コーチですら、「俺は森保さんのことは“BOSS(ボス)”と呼んでいる」「サッカー観が同じ」と明言しているほどなのだ。
史上最強か
過去の日本代表はW杯が近づくにつれてチーム内に亀裂が生まれたことも少なくなかった。2006年ドイツ大会ではジーコ監督が中田英寿を寵愛しすぎてチームが崩壊。2018年ロシア大会ではハリルホジッチ監督と本田圭佑ら主力との関係に亀裂が入り、大会直前に解任された。
「今の代表のチーム状態が良好なのは、やはり森保監督のマネジメント力が大きい」(前出・JFA関係者)
謙虚さと腰の低さから生まれるこの「マネジメント術」は、本大会でも十二分に発揮されるのか。本人はW杯での優勝を公言するが、世界一はともかく、現在の日本代表が史上最強であることは大方の見方が一致している。注目の抽選会は12月に行われる。





