ハダカで大声、川に立ちション…注意すれば「日本語わからない」 隠れ民泊で荒れる高級別荘地「軽井沢」の実情
「隠れ民泊」
あまりにもひどい状況を伝えようと町役場に直接赴いたAさんは、担当の環境課から「あれは民泊ではありません」と伝えられて愕然とする。
「県の保健所が認可を出せば営業できる簡易宿所だから民泊とは言えない。町ではどうしようもないので、うるさい場合はどんどん警察に通報してください」と告げられる。
なんと、簡易宿所・住宅宿泊事業者として県に届け出て受理されれば、軽井沢町ですんなり「民泊」を営業することができることがわかった。何とも穴だらけのこの仕組みを利用して、軽井沢で民泊を始めるための指南を謳う法律事務所なども出てきている。更には、「眠っているあなたの別荘を民泊にしませんか?」という惹句で、堂々とホームページで軽井沢での民泊経営を呼びかける業者も。実はAさんの隣家は、この業者が所有していることが判明。地元の不動産会社を通さず、海外の民泊サイトを通じて利用されているため、ステルス的に営業が始まるケースが多いという。
こうしたいわば「隠れ民泊」の多くが、条例に反して、町に届けず営業していることもわかった。Aさんの隣ももちろん無届。県に対して、この業者が簡易宿所の申請をした際、県は「軽井沢町の条例で、宿泊施設を営業する際は、町への届け出が必要。その際は近隣との事前協議などが義務付けられている」と伝えたが、業者側は「趣旨は理解したが、それは行わない」と明言したという。県から町にそのやりとりは伝えられたが、結局、現在の状況に。
「県は許可を出さないわけにいかないし、町の条例には罰則がないから、こうした民泊にも何も言えないそうなんです」とAさんは唇を噛む。
しかし、ある自治体関係者は「この対応はありえない。町には条例に基づき地域環境の保全をする責務があります」と憤る。
「悪質な宿泊施設による騒音・ゴミ・治安等の問題は、地域社会の秩序維持に関わるもの。罰則のありなしに拘わらず、町は改善・解消に向けて動かなければなりません。形だけの対処で終わらせていると、監督を怠ったとして『不作為責任』を問われることがあります」
町は「当事者同士で話し合って」
9月に行われた軽井沢町議会で、条例で定められた事前協議などが遵守されるよう今後の対応策を尋ねられた町は「民法上の私的自治の原則に基づき、事前協議には介入しない」と明言した。これはわかりやすく言うと「当事者同士で話し合ってください」という意。しかし、一般住民が事業者と対等に交渉できるとは限らないため、「弱者保護の観点からも行政が仲裁・規制すべきだ」と前述の自治体関係者は述べる。
実際、近隣の民泊について相談した町民のCさんは「ずっと指導はできないから、もし収まらなければ警察への通報や調停や裁判などで解決することをお勧めします」と町から言われたという。時間と費用を考えると裁判などはできず、今も解決には程遠い。騒音以外に、宿泊客が放す犬の糞が庭に放置され、衛生面でも悩んでいる。
また、隣家が町に無届だと判明したAさんのケースでは、なんと町から「経営者に届け出を急がせている」と報告を受け、耳を疑ったという。解決に向けて動くどころか、早く届けを受理して、町はイチ抜けた、後は当事者同士で話し合いをとなりそうで怖いとAさんは怯える。
「これはもう完全に環境問題です。こんな悪質な宿泊施設に進んでお墨付きを与えたら、条例に基づく監督権限の放棄と見なされ、行政の不作為による違法性を問われる可能性があります」(同・自治体関係者)
住民監査請求で、行政の監督義務違反を問うこともできるというが……。
「私たちは町とケンカしたいわけではありません。このひどい状況を何とかしてほしいだけ。住宅地にいきなり無許可のキャンプ場ができたら、どんな町でも対応に乗り出すはず。ご近所トラブル扱いで済む話ではないと思うのですが……」(Aさん)
現在、軽井沢町では要綱の見直しが行われており、宿泊施設に客がいる時は管理者が常駐するという規定が盛り込まれる予定だ。町はこれで解決すると明言しているが、こうした一軒家のどこに管理者が常駐するのか。民泊のことを全く想定していない改訂では、問題解決には程遠い。改訂されたとしても、そもそも要綱には罰則がない。
「いえ。罰則がないから消極的な対応でいいというわけではありません。軽井沢のブランド力を保持したいなら、そして悪質民泊を町からなくすつもりがあるのなら、宿泊施設の許可を出すにあたり県と町でもっと真摯に連携し合い、町の要綱・条例等が守られるよう即対策に動くべき。環境が改善しない間は指導も継続すべきです」(同・自治体関係者)
ブランドどころか「隠れ民泊」が住民に危害を及ぼす例まで出てきている。敷地前の小川に宿泊客がゴミを捨て、“立ちション”までしているのを見かねたBさんが注意をすると、「日本語がわからない」というジェスチャーで睨まれたという。
「その後、勝手に敷地に入られたり、写真を撮られたりして、本当に怖かったです」
「枯れ枝がある庭にバーベキュー後の炭や灰が捨てられていて、火災になるかと思いました」(Cさん)
「入れ墨だらけの若い男性グループがサウナで騒いでいたので通報したのですが、警官が帰った後、こっちに向かって『通報してんじゃねえ!』『行くぞコラァ!』などと大声で凄んで騒ぎをやめず、周囲で明かりが点いているのはうちだけだったので、一晩中、恐怖を感じました」(Aさん)
軽井沢町の土屋三千夫町長は今年、こう宣言している。
「自然と環境を守り未来へ繋ぐ責任を全ての関係者で共有し、先人たちが築いてきた軽井沢の自然環境と景観を守ります」
……「隠れ民泊」から軽井沢を守ることはできるのか。
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