金の値上がりに飛びつくのは「悪魔の選択」 「一般投資家は、高値づかみとなるのがオチ」 専門家がリスクを指摘
最強の実物資産は、どこまで跳ね上がるのか。金の国内店頭小売価格が先頃初めて2万円を超えた。東西冷戦時代から“有事の金”と称され、株や債券とは全く異なる値動きをたどってきた「富の象徴」。高騰のさなか、実は“平時”の備えこそが重要なのだという。
***
9月29日、国内の金地金(きんじがね)の指標となる「田中貴金属工業」の店頭小売価格で、金は1グラム2万18円(税込)を記録した。2万円を超えるのは史上初めてのことである。
さかのぼれば5年前、金の国内価格は40年ぶりに更新されていた。それまでの最高値は1980年1月の1グラム6495円。時あたかも中東でイラン革命が起き、アフガンにソ連軍が侵攻した直後。投資家の目はがぜん、安全資産の金へと向けられた。そして40年後、
「2020年4月には小売価格で6513円の史上最高値が付きました。その後も上昇し、8月には3営業日連続で記録を塗り替えて7769円に。当時は前年7月からFRB(米連邦準備制度理事会)が利下げを行い、また新型コロナウイルスのまん延で世界的に金融緩和策が取られていたのです」(経済ジャーナリスト)
ドルをはじめ通貨の価値が下落し、配当や利息とは無縁の金に再び注目が集まったわけである。それが現在では、実に2倍半以上の高値を維持しているのだから驚きを禁じ得ない。
金融・貴金属アナリストの亀井幸一郎氏が言う。
「国内で金価格が初めて1万円を超えたのは23年8月。わずか2年で1万円上がったことになります」
金は通常、グラムではなくトロイオンス(約31.1グラム)という重量単位で表示され、世界の市場では米ドル建てで取引されている。この価格に当日の為替レートを掛け、単位をグラムへと変換。そこに手数料などを加えて国内での円建て小売価格が決まる仕組みだ。円安が進めば金価格上昇の要因となるわけだが、
「現在は国内だけでなく、国際価格自体が上昇しています。大きな理由として、この期間に新興国の中央銀行が金を大量に買い続けたことが挙げられます」(同)
中央銀行の買い占めにトランプリスク
きっかけは22年2月のロシアによるウクライナ侵攻だった。
「米国は経済制裁として、ロシアが持つ外貨準備のドル資産を凍結しました。これに慌てたのが中国をはじめとする新興国。米国の都合で基軸通貨のドルが使えなくなるのならば、ドル資産(米国債)ではなく“無国籍通貨”の金を外貨準備に充てようと考え、大量買いが始まったのです」(亀井氏)
実際に、
「22年から24年にかけ、世界の中央銀行は年間合計1000トン以上の金を購入してきました」
とは一般社団法人「日本貴金属マーケット協会」の池水雄一・代表理事である。
「それまでは多い年でも年600トン程度でした。現在、金の生産量は年間およそ3700トン。その3割弱を中央銀行が買い占めているのだから、供給が減って価格はおのずと上がります。今年の年初は1トロイオンス2600ドル程度だったところ、現在はその1.5倍になっています」(同)
とりわけ1月から4月までの間には800ドルも上昇しており、
「これはトランプ大統領が就任し、関税を振り回して世界中に不安が広がったためです。標的にされた中国では、人民銀行だけでなく個人投資家もわれ先にと金を買い続けました」(同)
値上がりを目的とせず、買い一辺倒で退蔵する中央銀行。ここに“トランプリスク”が加わったわけだ。
「8月末にはトランプ大統領がFRBのクック理事を解任するとSNSで公表。人事に手を突っ込んだことでFRBへの圧力の懸念がいっそう高まり、価格を押し上げました」(同)
FRBは9月17日の会合で、政策金利の0.25%引き下げを決定。利下げは昨年末以来6会合ぶりで、年内にはあと2回の追加利下げが見込まれている。
[1/2ページ]


