フジテレビ得意の「本気の悪ふざけ」が復活? 「鬼レン歌謡祭」が大きな話題となったワケ

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制作陣のセンス

 番組全体の音のバランスにも工夫が見られた。お笑い要素が強くなりすぎて音楽そのものの魅力が損なわれないように、千鳥やかまいたちのツッコミ音声を適度に抑えて、楽曲をじっくり聴かせる場面もあった。音楽番組としての品格を保ちながら、バラエティとしての勢いも失わない。その切り替えの巧みさに制作陣のセンスを感じさせた。真面目な歌と笑いの瞬間が交互に現れる構成は、視聴者の感情を絶えず揺さぶり、飽きさせない。

 さらに、「FNS鬼レンチャン歌謡祭」では、実力派アーティストによる本格的なパフォーマンスも組み込まれていた。真剣に歌い上げるシーンと、芸人たちが全力でふざけるシーンが交互に展開することで、番組全体に“緊張と緩和”のリズムが生まれる。その流れの中で、終盤のクライマックスとして出演者全員が「We Are The World」を熱唱した。これまで笑いを取ることに全力だった出演者たちが、突然まっすぐな気持ちで歌う。そのギャップが逆に胸を打ち、笑いの中に一瞬の感動を生み出していた。

 番組の締めくくりには、宮崎駿のものまね芸人・遅咲駿が「崖の上のポニョ」のワンフレーズを歌った後、ダラダラと意味のない話を続けて終わるという脱力的な展開が待っていた。大掛かりな音楽特番の最後を、あえて締まらない笑いで終えるというところに、プロデュースを担当する大悟らしい美学を感じた。

「FNS鬼レンチャン歌謡祭」は、フジテレビがかつて得意としていた“本気の悪ふざけ”を体現する番組だった。真面目な音楽番組の体裁を保ちながら、徹底的にふざける。そのアンバランスさこそがフジテレビの原点であり、80~90年代に一世を風靡した同局のバラエティの精神を思い出させる。

 笑いと音楽、真面目と不真面目。相反するものを高いレベルで共存させた「FNS鬼レンチャン歌謡祭」を見ていると、苦境に陥ったフジテレビの再生の兆しを感じさせる。テレビが再び“バカをやる場所”としての輝きを取り戻すための確かな第一歩だった。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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