「ゲート前で野宿」「警備員を無視してダッシュ」「割り込みオバチャンも登場」 「大阪万博」エスカレートするAM5時の“予約争奪戦”

国内 社会

  • ブックマーク

早起きは三文の得!

 なぜ彼らはここまでやるのか。早く来れば来るほど、入館困難な人気パビリオンの予約が容易に行えるからだ。

「並ばない万博」を謳った大阪・関西万博。パビリオンやイベントはネット予約が基本となった。それでも、朝早く来た者が得をするという原則は、従来と変わらない。

 IDと紐付いたQRコードをゲートで読み取らせ入場すれば、場内5カ所に点在する当日予約端末での予約が即可能になる。また入場後、10分以内にスマートフォンでの予約も可能になる。早く入場すればするほど、入場者はすくない。そのため当日予約可能なパビリオンやイベントが選び放題なのだ。

 入場開始時間から5分以内で当日予約枠が埋まるという最難関パビリオンのひとつ、モンスターハンターブリッジも選べるし、最長で8時間待ちというイタリア館にも即入れたりする。2ヶ月前抽選、7日前抽選などで予約を勝ち取る方法もあるが、蓄積したノウハウと行動力次第、つまり自分の力で予約を勝ち取るには、早朝に来ることが最短距離となるのだ。

意地を張り、ズルをするオバチャン

 東ゲート前広場では、朝7時になると保安検査場への大移動が始まる。3列に並んで整然と進んでいく。出し抜いて列を乱す者は誰もいない。それどころか保安検査場前の一番端のレーンでは入場者が声をかけあって、効率的に並ぼうとする動きができていた。ひとつのレーンには左右一つずつ保安検査用の機械がある。

「それぞれの検査機に、ひとりずつ並んでください。そうすればスムーズです」

 誰からともなく声を掛け合っていた。9時前から行われる保安検査。横入りがなければ、一人ずつ、争うことがなく、スムーズな入場ができるのだ。

 ところがだ。数分後、そこに60ぐらいの小柄で頑固そうなオバチャンがやってきて左右二列縦隊の間を進み、最前列にどんと割り込んだ。

 すると、私の周りにいた常連たちがそのオバチャンを注意し始めた。

「ここの列は2列で並んでるんです。そこに並ばんと後ろに並んでください」

「そうやそうや。後ろ並んでや!」

 ところがそこは大阪のオバチャン。簡単には引き下がらない。

「私もね、予約取るために朝早く起きてやってきたんや。今さら引き下がられへんで!」

 そういって居座ってしまった。

 保安検査が始まった午前8時53分、二列に並んだ人たちは団結してオバチャンを排除した。

「あんた後ろ並べ。少なくとも5人ぐらいは後ろに並べ」

 と言って、皆で協力して強引に後ろへ並ばせたのだ。

【後編】では、もうひとつの会場への入り口・西ゲートでの予約争奪戦の異様な実態と、当選倍率100倍とも言われる最難関パビリオンについて詳述する。

西牟田靖(にしむたやすし)
ノンフィクション作家。1970年大阪府生まれ。日本の国境、共同親権などのテーマを取材する。著書に『僕の見た「大日本帝国」』、『わが子に会えない』、『子どもを連れて、逃げました。』など。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。