定年退職したら何も残らなかった…70歳を過ぎても楽しく働くひとの“3つの共通点”

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「感じがいい」「人付き合いがいい」「笑顔がいい」

 金吾さんはとにかく失敗した話しかしない。「成功者の話は自慢ばかりでつまらん。他人の失敗の話の方が面白い。ワシは99%が失敗や」と言いつつも、広大な畑を持ち、農作業を手伝いに遠く福岡から来る人を迎えに行き、近所の若者がブランド卵を作る手伝いをしている。

 卵を作る若者には「ワシは薬草を研究しとる。その薬草を鶏に食わせれば『健康になる卵』として高く売れる」とアドバイスをしたのだという。ホントかよ? というほら話だらけなのだが、とにかくやることが破天荒で、南方の果物であるバナナを作り出したかと思えば、イノシシを解体するから見に来い、と言ったりして、とにかく愛嬌のある人物である。そして、大量のイノシシの肉を持ち帰らせてくれるほか、畑からは野菜を収穫しまくって軽トラの荷台に大量に載せ、唐津の知人に配れと言う。挙げ句の果てには米を30kgくれる。

「失敗しまくっていいんよ。ワシは昔オランダで大韓航空機を遅れさせたことがあった。あれは恥ずかしかったし他の乗客に申し訳なかったわ……。成功したと思う時は、分からずにやった結果。失敗だけは、明確に失敗の答えが出る。だから失敗をしまくって100に1つの成功があればいい」

 ちなみにバナナは量産体制には入っていないし、サウナは完成せず、焼き芋を作る小屋になっている。1000年持つお堂を作ると言い出し、そのためにクラウドファンディングで名付き瓦を1枚5000円で販売すると宣言したが、この構想もすでに約5年経過して進展の色は見られない。

 70~90代で働く人は「感じがいい」「人付き合いがいい」「笑顔がいい」の特徴があると述べたが、私がいつも行く屋台「美好子」の美代子さん(79)もすべてがある。そのうえで「おせっかい焼き」という面があり、「アンタ、メシ食いんしゃい! そげんやせてどぎゃすると!」とキレて口の中に握り飯を押し込んでくる。唐津に来る人々は異口同音で「唐津の母」と呼ぶ。

こんな人生もありだったんだな

 他にも90歳でシャインマスカット農家を営む多久市「武冨果樹園」の武冨さんは、いきなり私に会いたいと佐賀新聞経由で連絡してきて、翌日会うと、長嶋茂雄さんソックリ。「ウチのシャインマスカット食べて欲しかったんや。ワシはアンタの文章好きや」となり、おいしいシャインマスカットの見分け方などを教えてくれ、挙げ句の果てには「アンタ釣りするやろ?」と釣り道具をくれた。その翌月には「終活や」と50年ものの高級ブランデーをくれた。30本ほどくれようとしたのだが3本だけもらい、「飲み終えたらまた会いに来ますのでその時ください」と、長生きをしてもらいたい気持ちを込めて伝えた。

 私自身、47歳で半隠居生活を開始してしまったが、こうした働く高齢者を見ると、「こんな人生もアリだったんだな……」と若干寂しくなってしまうのである。と同時に、人生100年時代をナントカ生き抜くにはこうした先人の生きざまを若いうちから見ておいた方がいいと感じた。

ネットニュース編集者・中川淳一郎

デイリー新潮編集部

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