劇団ひとりが嫉妬する芸人・バカリズム 仕事量は「4トントラック」と「軽自動車」ほどの差

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多い共通点

 一方のバカリズムの経歴は、劇団ひとりとの共通点が多い。1990年代にコンビとしてデビューした後、ピン芸人として再出発して、すぐにピン芸日本一を決める「R-1グランプリ」(当時の表記は「R-1ぐらんぷり」)の決勝に進んで頭角を現した。抜群の発想力を生かして、フリップ芸をはじめとする多彩なフォーマットで見せるネタが評価され、どんどん人気を伸ばしていった。

 自分がOLという設定で書いていたブログの内容がまとめられて『架空升野日記』(辰巳出版)という書籍として出版された。それがもとになって「架空OL日記」(読売テレビ・日本テレビ系)というドラマも制作され、バカリズムが脚本・主演を務めた。2014年放送の「素敵な選TAXI」(関西テレビ・フジテレビ系)で初めて連続ドラマの脚本を手がけ、これが評判になってその後も脚本の仕事が増えていった。

 タレントとして数多くのバラエティ番組に出演するかたわら、映画や連続ドラマの脚本家としても高い評価を受けている。「架空OL日記」は向田邦子賞を受賞。2023年放送の「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ系)は、アジア・テレビジョン・アワード最優秀脚本賞をはじめとして数々の賞を受けた。

 クリエイター芸人として精力的に活動する彼らだが、その作風には明確な違いがある。劇団ひとりは、ビートたけしの自伝的小説を原作とする「浅草キッド」のように、自分の好きな設定や世界観というものを持っていて、それを軸にして作品を組み立てていく。一方、バカリズムの作品には、何気ない日常会話や普段の生活における「あるあるネタ」の中にじわじわくる面白さがある。たとえ突飛な設定の作品であっても、その中に生活感のある面白さを持ち込んでいく。

「ハレとケ」という区別で考えるなら、劇団ひとりはハレ(非日常)の世界を描くクリエイターであり、バカリズムはケ(日常)の世界を描くクリエイターなのだ。

 スポーツの世界でライバルが互いを高め合うように、劇団ひとりとバカリズムも日本のエンタメにおけるクリエイター芸人の可能性を広げ続けている。お互いが「相手が自分にないものを持っている」とわかっているからこそ、嫉妬し合いながらそれぞれを認めている部分もあるのだろう。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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