宮崎美子がアニメ映画で新境地「声だけで伝わる」 無期懲役囚の恋人役で感じた“声優の奥深さ”とは

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人生の重み

 宮崎が演じた那奈は、阿久津の人生に寄り添い続ける女性だ。台本には「老・阿(老いた阿久津)」「老・那(老いた那奈)」といった表記もあり、「登場人物の平均年齢が高くて面白い」と笑う。「阿久津さんは職業柄、荒っぽいけれど、根っこは純粋で信頼できる人。だからこそ純愛が成立する」と役の関係性を語る。派手ではないが、人生の重みを背負った人物像に惹かれたようだ。

 完成した映像を観て、戸惑いは確信へと変わった。「不思議なのに、見終わるとふんわりとした解放感が残る。言葉では説明しづらいけれど、確かに心に残るものがある作品です」。

 物語冒頭を飾る花火のシーンについては、「あれはアニメーションならではの力を感じました。大画面で観ると、そこからいろんなものが弾けて物語が広がっていく」。冒頭から観客を一気に作品世界へ引き込む重要な場面であり、宮崎自身も心を奪われたという。

 一般的にアニメは若者が中心になることが多い中、本作はあえて年齢を重ねた人物たちが物語を動かす点で異彩を放っている。「小林さんが“若者が出てこないアニメって大丈夫なのかな”と心配されていた」と水を向けると、「そう言えば、珍しいアニメかもしれませんね。けれど、観終わって納得しました。大人の物語として成立しているんです」と微笑む。

 映画のキーワードとなるのが「大逆転」だ。宮崎は「本当に長い間大事にしてきた人だけに訪れるもの」と語り、自身の考えを重ねる。「私は小さな逆転こそが幸せだと思うんです。1日1日を大事に積み重ねることが、平穏で一番幸せな生き方なんじゃないかと」。

 完成作品を観た際の感想を改めて尋ねると、「音楽と映像が重なって、気持ちが解きほぐされるようでした」と語る。説明のしづらい作品ではあるが、その余韻は確実に観客の心を揺さぶる。「細かいストーリーを追うよりも、登場人物の思いや感情のつながりを感じてほしい」と呼びかけた。

 今回の経験は、宮崎にとって声の仕事への新たな意欲を呼び起こした。「アニメも映画もドラマも、吹き替えも含めてもっと挑戦したい」と目を輝かせる。

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 第2回【デビュー作で「帰っていい」 映画「雨あがる」が転機…還暦ビキニにYouTube 66歳・宮崎美子の人生観】では、これまでの芸能活動を振り返っている。

宮崎美子
1958年、熊本県出身。1980年に『週刊朝日』の表紙モデルに起用された後、ミノルタカメラのテレビCMに出演。同年ドラマ「元気です!」(TBS)の主演で俳優デビュー。以降、映画、ドラマ、舞台、クイズ番組などで幅広く活動する。映画「雨あがる」(00)で日本アカデミー優秀主演女優賞、ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。近年の主な出演作に「介護スナックベルサイユ」(東海テレビ・フジテレビ)、連続テレビ小説「おむすび」(NHK)、配信ドラマ「さよならのつづき」などがある。故郷の熊本では「週刊山崎くん」(RKK熊本放送)にレギュラー出演中。

デイリー新潮編集部

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