広陵の“いじめ問題”が泥沼化 現場から聞こえた声は…「過保護や過干渉な親が増え、保護者同士の揉め事が多い」と甲子園出場監督が嘆く

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 今年も様々な出来事があった高校野球だが、社会的に最も大きな話題となったのは、やはり広陵で発覚した“いじめ問題”だろう。今年の1月、複数の上級生による暴力事件が下級生の部員に対して発生した。学校側は広島県の高野連に報告し、3月には厳重注意処分を受けた。だが、被害を受けて転校した下級生の保護者がその対応への不満をSNSに投稿したところ、瞬く間に情報は拡散した。夏の地方大会を勝ち抜いて甲子園に出場していた広陵は、2回戦を前に出場辞退を発表し、監督やコーチなどの指導者も交代となった。【西尾典文/野球ライター】

関係性の変化

 しかしながら、騒動はこれだけで終わらなかった。9月に入り、暴力事件の加害側と見られる生徒の一人が、被害側生徒の保護者を含む複数人を名誉毀損で刑事告訴したことが明らかになった。その理由としては、暴力事件について事実とは異なる情報が拡散され、多くの誹謗中傷を受け、卒業後の進路にも影響が出たことなどが挙げられる。事実関係や法的な解釈は今後の捜査などで明らかになっていくと思われるが、事態の完全な収束には時間を要するだろう。

 筆者がアマチュア野球を取材している際にも、今回の問題についての話が出ることは少なくない。まず、よく聞かれる意見としては、指導者と生徒、また生徒同士の関係性の変化が挙げられる。

 関東地区で甲子園の出場経験がある高校の監督は、次のように話す。

「以前は指導者に対して生徒は直立不動であり、生徒同士も上級生の言うことは絶対というチームが多かったですが、今ではそのようなやり方が通用しなくなってきています。『なぜ、こういう練習をするのか』『なぜ、部内にこのようなルールがあるのか』ということをしっかりと説明して、生徒に納得させなければならない。昔より手間がかかります。生徒は自分で色々調べられるようになっています。高校に入学する前から、野球塾などで色々な指導を受けている生徒もいる。部員が多くなると、全員に目を配ることは難しくなる。指導者の数を増やすか、部員の人数を絞って少数精鋭で運営しようとしても、学校経営に影響を与えるため、簡単な話ではありません。生徒への指導はもちろん、組織を円滑に運営していく点が、以前より重要になっていると思います」

 広陵の野球部員は、3学年合わせて164人の大所帯であり、全員が寮生活を送っている。多感な時期の高校生がこれだけ集まり、寝食を共にしていれば、何らかの問題が起こるのも当然だろう。

寮に戻りたくない

 難しい問題は、指導者と生徒、生徒間の関係性だけではない。生徒の保護者と指導者との関係も重要になる。長年東海地区で高校野球の指導に携わっている監督は、こう話してくれた。

「昔に比べて両親と仲の良い子供が増えたように思います。それ自体は良い面もありますが、過保護や過干渉ではないかと感じることもあります。少子化の影響で一人っ子が増えていることも影響しているかもしれません。昔からレギュラーの保護者と控え選手の保護者が仲違いするような難しい部分がありましたが、保護者同士の揉め事を聞くことも多いです。グループLINEやSNSで“裏のグループ”ができるほか、特定の保護者が仲間外れにされるようなケースもあるようです。こちらとしても保護者の協力は必要なため、強く言いづらいです。保護者との関係性に悩んでいる指導者は多いと思いますね」

 広陵の件も、指導者と学校の対応に保護者が不満を持ったことから大きな問題に発展している。また、他の監督は、保護者同士の関係性が良いチームは結果が出やすい印象があると話していた。保護者へのマネジメントも指導者にとって大きな課題と言えそうだ。

 ここまでは指導者側の声を紹介したが、保護者側からも意見もあるようだ。子どもが寮生活を経験した保護者(母親)から、高校野球について次のような話を聞いた。

「入学前に練習の見学した際、指導者も先輩の部員もすごく元気で雰囲気も良いチームだと感じました。ただ、実際入部してみると理不尽な上下関係やルールがあり、良い面ばかりではなかったようです。下級生の頃、一度帰宅した時に寮に戻りたくないと訴えたことがありました。ただ、監督に相談しようかと提案しても、それは嫌がり、結局そのまま最後まで続けました。正直に言って、指導者や保護者間のコミュニケーションも十分ではなく、他の学校という選択肢もあったのではないかと思います」

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