この先もずっと円安? FRBが9カ月ぶり利下げ決定で日米金利差縮小でも円高にならない「3つの理由」

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日本で起きている「構造的円安」

 ただ、そうした積極財政は日本の財政に対する不安材料となり、それもまた円安を後押しする要因となり得ます。これが円安の続く2つ目の理由です。

 前回の参院選では、財政出動的な政策を掲げる党が票を伸ばしましたので、少数与党である自民党は誰が総裁選の勝者になろうとも、ある程度は野党の意見を聞かざるを得ません。

 積極財政で財政不安が顕在化すれば、国債の信用が下がって円は売られますから、円安を招くことになります。

 3つ目の円安要因は、通商交渉で決まったアメリカへの投融資です。日本は総額5500億ドルにのぼる融資・投資を約束させられました。実際には投資に占める割合は1割ぐらいで、残りは融資保証ということですが、融資の実行には円を売ってドルを調達する必要がありますから、これも円安要因になります。

 政府が約束した以外にも、民間企業による大規模な投資が続いています。例えば日本製鉄によるUSスチールへの投資や、ソフトバンクグループによるアメリカのAI関連企業への投資がありましたが、そうした巨額の投資や日本企業によるアメリカ企業のM&Aも、ドル調達の需要から円安のファクターとなります。

 実は個人の消費行動も円安を後押ししていて、それがGoogleやAmazon、Netflixなどへの課金です。最近はChatGPTへの有料課金をしている人もずいぶん増えましたが、そうして積もり積もった課金が巨額なデジタル赤字として、円売りドル買い、すなわち円安の要因となっているのです。

年明けには再び1ドル=150円を試す展開も?

 年内の為替の見通しについて一番ありそうなシナリオは、このまま147~148円あたりをフラフラとしながら年越しを迎えるというものです。

 市場の想定通り、FRBが年内にあと2回、合計50bpの利下げをしたとして、今回のように瞬間的に円高に振れることはあるかもしれませんが、先ほどお話ししたような日本円の潜在的な弱さは変わりませんので、極端に円高が進むことは考えにくいでしょう。

 むしろ、年内3回のFRBの利下げで「打ち止め感」が意識されると、年明けには再び150円を試す場面も十分に考えられます。

 円安は輸出企業の収益を押し上げ、ドル建て日経平均株価の割安感を演出することになりますので、引き続き円安・株高の状況が続くものと予想されます。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト。上智大学外国語学部卒。神戸大学大学院・経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。帝京平成大学・人文社会学部経営学科教授。社会構想大学院大学・客員教授。国内銀行系投資顧問、外資系運用会社、ヘッジファンドなど様々な運用機関でファンドマネージャー等を歴任。2010年より現職。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)

デイリー新潮編集部

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