「ヘンな大学に進むより賢明」な生き方とは? 中川淳一郎が自由奔放な友人を見て思ったこと

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 ひと手間かかるから作りたくない料理、というものがあります。でも食べたいんだな。ジレンマですね。

 ならば、どうするか。その手間を省略すればいいのです。例えば、スパイスカレーを作る時に「タマネギをあめ色になるまで約30分炒める」ってな手順があります。コレが面倒くさいし、ガス代もかかる。

 30分炒めた方が本当はおいしいのかもしれませんが、圧力鍋で鶏の手羽元と一緒に煮込むと、せっかくあめ色にしたタマネギは影も形もなくなってしまいます。

 となると、かけた手間はなんだったんだという話に。

 この手順を抜かすだけで、スパイスカレー作りのハードルは一気に下がります。

 時間はあくまで適当です。タマネギを炒める際はギー(牛・水牛・ヤギの乳由来の脂)を使いましょう、なんてレシピ本には書かれてますが、これも面倒ですし値段が高いのでサラダ油で十分。最近は「四毒抜き」とやらで、植物油を取らないほうが健康にいいと唱える人もいますけど、そんな主張は歯牙にもかけずで!

 ウコン・コリアンダーパウダー・クミンパウダーを1:1:1の割合で入れる。そんなお作法もよく知られます。これもいちいち量るのは手間なのでテキトーに入れる。異国情緒が漂う新大久保のハラール食材店に行くと、各種スパイスを1袋200円程度で売っています。見るにつけ興奮のあまり何も考えずにいろいろ買いがちです。が、細かいことは想像無用。ディル、クローブ、カルダモン、カイエンペッパー、クミンシードなどをエイヤと入れてサッサと炒めてしまう。

 かくして料理の省力化にまい進するわけですが、この考え方は人生にもどうやら当てはめられそうです。

 少子高齢化の昨今、大学は随分と入りやすくなっています。偏差値50ぐらいの私立大の国際ナントカカントカ学部みたいなところには入れるかも。これ、手軽です。ただし、そこで得た知識と学歴が人生で役立つかは、よく分かりません。

 その点、最近強く感じるのが職人の強さです。職人といっても人間国宝になろうかといった陶芸家とかでなく、すし職人やハンダゴテの技術者です。ハンダゴテ技術者で「一人親方」のS氏とは6月に何度も一緒に釣りをしました。高級なトヨタハイエースを駆り、新しい釣り竿なんかもバンバン買っておられる。

 かなり羽振りがよさそうで、どうも2月~5月にかけて仕事が殺到し、相当な収入を得たようなんです。

 その反動で6月以降は、月に10日ほど働くだけの悠々自適生活に突入するも、10日間で一般的サラリーマンよりよほど稼いでいそう。

 アナゴやらスズキやらを大量に釣っては、恋人と一緒にぜいたくな釣果を堪能する日々を過ごしています。

 手を抜いて妙な大学に進むより、技術をサッサと身に付けて自分の人生を確立する方がよほど賢明かも。

 S氏の自由奔放なる金満人生を目の当たりにすると、工業高校でハンダの技術を習得し、18歳で仕事を始めるのが理想なんじゃないか、と思ったのでした。

 AIが発達しようが、AIはすしを握れず、ハンダも付けられない。技術職は強し。とはいえ技術を身に付けるまでの努力は手を抜けず、そこがジレンマです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』など。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2025年9月18日号掲載

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