「イチかバチかで決行するしかない状況」 米国特殊部隊が「北朝鮮の民間人」を射殺… 現場では何が起きていたのか
スパイ映画さながらの事件である。米海軍特殊部隊「SEALs」が北朝鮮に上陸し、金正恩総書記(41)の会話を傍受する新型の電子機器を設置しようとしたが、まさかの失敗。無辜(むこ)の民を射殺してしまったという。計画を主導したとみられるドナルド・トランプ米大統領(79)は一体、何を考えていたのか。
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【写真を見る】南北軍事境界線を挟んで笑顔で握手する「金正恩総書記」と「トランプ大統領」
恐怖を覚えた隊員が発砲し……
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が9月5日に放った特ダネは、瞬く間に世界を駆け巡った。
「SEALsが作戦を実行したのは、2019年初頭だったといいます。当時、1期目だったトランプ大統領の承認があったそうですが、本人はNYTの報道を否定。一方の北朝鮮が事態を把握していたかは、いまだ不明です」(国際部記者)
任務を担ったのはSEALs内の精鋭「チーム6」。アルカイダの最高指導者、ウサマ・ビンラディンを殺害した実績を誇る。
部隊は原子力潜水艦で北朝鮮沖に着き、さらにそこから計8名が分かれて2隻の小型潜水艇に乗り込み、海岸付近まで向かった。最後は、約90メートルを泳いで上陸したという。
〈実行日の夜、海は穏やかで静寂に包まれていた〉
とは、NYTの当該記事。抜粋し、翻訳した内容をさらに続けると、
〈ウェットスーツに身を包み、暗視ゴーグルを装着した隊員たちが、無人だと思われた海岸に着いたその時、ミッションは崩壊した。まさか近づいてきた北朝鮮の船によって、海面がライトで照らされたのだ。発見されたかもしれないと恐怖を覚えた隊員が発砲し、数秒のうちに、件の船に乗っていた漁師と見られる全員が死亡。機器を仕掛ける目的は諦め、即座に現場から撤退したのだった〉
実行前の数カ月間、部隊は目的地における人や船の出現頻度を、衛星などが取得したデータで調査したという。しかし、ドローンを使ったリアルタイムの偵察は、レーダーに引っかかるため不可能。結果、当日はイチかバチかで決行するより他はなかった。
トランプ大統領が圧力をかけた可能性
「トランプ大統領はあの頃、金氏からハシゴを外されて焦っていました」
こう見解を述べるのは、元共同通信ワシントン支局長で国際ジャーナリストの春名幹男氏だ。
「18年6月、史上初の米朝首脳会談がシンガポールで開催され、両国は朝鮮半島の完全非核化を掲げた共同声明に署名しました。トランプ大統領は直後の会見で“私の直感と才能により、北朝鮮がディールを望んでいたことが分かった”と成果を自画自賛。ところが、間もなく金氏が濃縮ウランの生産を強化していることなどが分かり、雲行きが怪しくなったのです」(同)
2回目の会談が、ベトナムのハノイで開かれたのは19年2月。結局、非核化交渉は決裂したが、
「ここまでの間にトランプ大統領は、金氏の腹の内を探ろうとしたのでしょう。もっとも、北朝鮮はスパイを使って情報を取るのが難しい。そこで米国家安全保障会議に“通信傍受の装置を作ればいいじゃないか”などと、圧力をかけた可能性が考えられます」(同)
だとしたら、発想が安易過ぎやしないか。
「トランプ大統領は、誰に対しても一対一で会談を開けば何とかなる、と本気で思っている単純な人です。SEALsの件も、リスクの高さを考慮していなかったのではないか。現在、東アジアの安全保障環境は厳しくなっています。第1次世界大戦が、セルビア人青年によりオーストリア皇太子が暗殺された事件によって起きた歴史を、振り返っていただきたい」(同)
北朝鮮上陸作戦で民間人をあやめた過ちが、戦争の火種になることだって、十分にあり得るというのだ。





