米国に激震「カーク氏射殺」 死で増した影響力が招く政情不安…「内戦さながらの衝突」「左派弾圧」よりも懸念すべき動きとは

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米各地で衝突が発生する可能性も

 カーク氏は不法移民取り締まりの急先鋒でもあった。

 トランプ政権が7月、産業界の要望を受けて農業やホテルなどで従事する不法移民の摘発を猶予する意向を示すと、カーク氏は「MAGA(トランプ氏を忠実に支持してきた政治勢力)を分裂させる」と猛反発した。

 今年のレイバーデー(労働者の日)にあたる9月1日、オレゴン州ポートランドの移民収容施設前で、移民関税執行局(ICE)の係官とトランプ政権の移民政策に抗議するデモ隊が衝突した。内戦さながらの緊迫した状況となった。

 カーク氏の死を契機に不法移民取り締まりの動きが加速すれば、米国各地でポートランドと同様の事態が起きてしまうのではないだろうか。

ベネズエラに対する強硬姿勢の理由

 カーク氏の死は米国の安全保障政策にも影響を及ぼす可能性がある。

 カーク氏が中心的な役割を果たしたMAGAの安全保障政策は、その基本が「米国第一」の理念に基づいている。そのため、米国の国際的な役割を縮小し、米国の利益を最優先する傾向がある。

 トランプ氏はロシアとウクライナの停戦交渉に関与しているが、元ホワイトハウス首席戦略官でMAGAの主導的存在であるスティーブ・バノン氏は、「停戦交渉には1セントの価値もない。我々はこの紛争に巻き込まれるだけだ」と不満げだ。

 トランプ氏は5日、国防総省の新名称に「戦争省」を使うよう指示する大統領令に署名した。より明確に国家利益に焦点を絞り、敵対勢力に対して米国が自国利益を守るために戦争をも辞さない姿勢を示すことが改名の理由だ。ヘグセス「戦争」長官は、「断固として戦うが、長期戦は回避する」と説明している。

 戦争省の最初のターゲットはベネズエラのようだ。トランプ政権はこのところベネズエラに対して強硬な態度に出ている。

戦略目標を中国から中南米にシフトか

 ここ2週間で、米軍は米国へ向かうベネズエラの麻薬カルテルの船舶を2回攻撃した。米国民の健康を蝕む麻薬密売カルテルは「国家安全保障に対する脅威」というのが理由だ。トランプ氏が15日に明らかにした内容では、2回目の攻撃は国際水域上で行われ、3人を殺害したという。

 ロイターは「トランプ政権はベネズエラ領内で活動する麻薬カルテルを標的とする軍事攻撃も検討している」と報じた。麻薬問題解決のためならベネズエラとの軍事衝突も辞さない、ということなのだろう。

 トランプ政権は一方で、中国を敵視する姿勢を控えるようになっている。

 トランプ氏は15日、スペイン・マドリードで実施された米中貿易交渉が非常にうまくいったことと、習近平国家主席との電話会談を18日に行うことを公表した。

 トランプ氏の方針変更の背景には、MAGAは中国を敵視しているものの、冷戦時代のような全面的な対決を望んでいないとの認識があるのかもしれない。「戦争省は戦略目標を中国からベネズエラなど中南米にシフトしている」と指摘する専門家もいるほどだ。

 このように、カーク氏の死が米国の内政・安全保障政策に影響を与える可能性は排除できない。最大限の関心を持って、米国の今後の動向を注視すべきだろう。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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