12歳で子役デビューも…20代は恵比寿の飲食店でバイト「客と喧嘩しかけた」 それでも俳優を辞めなかった理由
映画を毎日1本観る
その頃、環境は一変した。
「事務所からの給料もなくなり、バイトせざるを得なくなってしまい、恵比寿の飲食店でホールスタッフをしていました……。それでも、ちょこちょこドラマに出させてもらっていたので気づかれることもあったのですが、中には正直腹の立つお客さんもいて、ちょっと喧嘩しかけたこともありました。『なんでこんなに偉そうなんだ』と(笑)。でも、そういう経験も今では大きな糧になっています」
華やかな舞台から一転、生活のために皿を運び、客とやり合いそうになる日々。俳優としての自分とアルバイトをする自分、そのギャップに苦しんだ時期だった。「当時は本当に悩んでいました。俳優を続ける意味があるのかとも思った」と本音を漏らす。
それでも芝居を諦めなかったのは、映画があったからだ。「映画を毎日1本観る」と自分に課し、スクリーンの中に生きる答えを探した。
「映画を観ていると作り手の熱量や役者の姿勢が伝わってきて、自分もまた現場に戻りたいと思えた。映画そのものに救われたんです」
この“谷”を経て、遠藤は改めて映画と向き合った。アルチュール・アラリ監督の「ONODA 一万夜を越えて」(2021年)では国際共同製作の現場に参加し、24年には小路紘史監督のインディーズ映画「辰巳」で主演を務め、ロングランヒットを記録し、第38回高崎映画祭の最優秀主演俳優賞を受賞した。
「映画に救われてきた自分だからこそ、映画に恩返しをしたい。日本の同世代や若い才能あるクリエイターと一緒に作品を作りたいですし、海外の監督ともまた挑戦したい。そのために語学も学んで準備をしています」
そして最新作が、主演映画「男神」だ。YouTubeで朗読され話題を呼んだ原作をベースに、禁忌の穴に消えた息子を追う父親を演じる。「ホラーではあるけれど、家族愛やファンタジーの要素もあり、恐怖だけにとどまらない作品。大人も子供も一緒に楽しんでもらえる映画です」と語る表情は晴れやかだ。
子役から四半世紀。華やかな舞台も、不遇のアルバイト時代も経て、「能動的に芝居をする俳優」へと深化した遠藤雄弥は、今また新たな挑戦のステージに立っている。
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前編【YouTubeで朗読され「今までで一番怖い話」と話題 異色のホラー作で「ドラえもん」を思い出した】では、遠藤が主演映画「男神」について語っている。
□遠藤雄弥(えんどう・ゆうや)
1987年3月20日、神奈川県出身。2000年に「ジュブナイル」(山崎貴監督)で映画デビュー。その後も多くの映画やドラマ、舞台に出演するなど、役者として活動の幅を広げている。第38回高崎映画祭にて映画「辰巳」(小路紘史監督)で最優秀主演俳優賞を獲得。2025年以降も「室町無頼」(入江悠監督)、「ザ・ゲスイドウズ」(宇賀那健一監督)、「東京予報-映画監督外山文治短編作品集-」の一編「名前、呼んで欲しい」、Netflixシリーズ「イクサガミ」(藤井道人監督)、「仏師」(田中綱一監督)など。
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