病院に駆け込んだ経験も… 横尾忠則を悩ませる「便秘」について専門家に聞いてみると

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週刊新潮」を読んでいて、「これだ!」と思ったことがありました。今年の初めですが、それは熊本県で大腸を専門にしている先生が、便秘について書かれた記事でした。

 以前にもこのエッセイで書きましたが、僕は日ごろから便秘ぎみで、酷いときは家で七転八倒した挙句、かかりつけの病院に駆け込むなんてこともあるほどです。そんな具合なので、記事を見たときぜひともこの先生に便秘についてあれやこれや聞いてみたいと思ったのです。記事を読み、すぐさま病院に連絡すると、学会で上京する際にお時間をくださることになりました。

 今回のエッセイは、その記事を書かれた「大腸肛門病センター高野病院」の高野正太理事長にアトリエへお越しいただき、面談した際の話を対談風に書こうと思います。

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横尾(以下、僕) いや、ちょうど、便秘で困っているときに、先生の記事を拝見しました。それで、色々と教えていただけたらと思いまして。

高野(以下、高) 今は、便秘は大丈夫なんでしょうか。

僕 なんとなく慢性みたいな。マグネシウムの薬がありますね。あれでなんとか持ち堪えてる感じです。

高 酸化マグネシウムで大丈夫だったら、そんなに酷い便秘ではないと思います。酸化マグネシウムは便秘でちょっと困ってる方に一番最初に出す薬ですからね。

僕 1日3回と書いてあるけど、僕は時々しか飲んでいない。それも1個ずつ。薬は、たくさん飲まない方がいいと思っているので。

高 はい、薬は飲まない方がいい。僕も基本的には薬を飲まないで治療するというか、どういう便秘なのかを調べた上で治療するようにしています。

僕 老化現象なんですかね。

高 お年を召してくると腸の動きも悪くなりますし、腸内環境、腸内細菌のバランスとかも悪くなりますからね。今日は便秘の話でよろしいんでしょうか。いきなり始まっちゃいましたけど。

僕 記事を見たとき、便秘について部分的に語れる人はいるけれど、先生の場合はすごい広範囲に便秘を捉えているなって思いました。

高 基本的に便秘は生活習慣病に入れてもいい、全身の問題であるという風に考えています。

僕 便秘は病気なのですか。

高 病気、だと思います。糖尿病が将来的に合併症とか出てきて治療しないといけないのと同じように、便秘も治療しないと、様々な弊害が出てきます。便秘の人と便秘でない人では、便秘の人の方が、寿命が短いっていう海外のデータがあります。

僕 じゃあ僕は、寿命は長い方だけど……便秘のために長生きしてるわけじゃないんです。

高 便秘も大きく分けて2通りあって、腸の動きが悪くて排便回数が少なくてお腹が張るとか、便が硬くなって困るといった症状と、お尻まで来てるのになんかうまく出せないというものがあります。2つのうち横尾さんはどちらですか。

僕 僕はね、トイレ行くのが、めんどくさいから回数を少なくしたい。

高 それは、絵を描く活動の中で、集中してるから行きたくないのですか。それともただ単にめんどくさいからですか。

僕 単にめんどくさいからです。以前は、あんまり便秘の意識はありませんでした。ここ1年ぐらいの間に、なんとなく便秘っぽいなって自覚し始めて、自覚すると便秘になっちゃうんですよね。

高 便秘には確かな定義というか決まりがなくて、じゃあ週に1回しか行かないから便秘、というわけでもないんですよ。週に1回でも定期的に行って気持ちよく出せてる人は便秘じゃないし、毎日出してる人でもちょっとしか出ない、あるいは出すときにきついとか、お腹が張るとかですと便秘といえます。

僕 僕は便の期間が空いてるときに、はっと気が付いて、慌てて薬を飲むんです。そしたらすぐ、その次の日ぐらいからまた元通りになる。それで、また出なくなると飲む。だから3日に1回か4日に1回ぐらい、1錠ずつ飲んでるっていう感じです。

高 でも、そういう飲み方をされる方もいますので、悪くないと思いますよ。僕も一応1日3錠とかで出しますけども、患者さんに自分でコントロールしてくださいって話はしますね。症状の酷い人ですと、マグネシウムより刺激性の強い下剤を1日200錠飲む人とかいました。そういう人でも、今は下剤から漢方薬に替えて、お腹も張らなくなっています。

僕 じゃあ僕は病人じゃないわ。趣味便秘だ。今のお話聞いてると、すごい人がいるんだから(笑)

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 といった感じでアッという間に時間が経ってしまいましたが、先生の話を聞いて安心したのか、以来、便秘にも困らず快調な日々を送っています。他にも色々お伺いしたのですが、またの機会に。便秘じゃないですけど、それまで僕の中に溜めておきます。

横尾忠則(よこお・ただのり)
1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。第27回高松宮殿下記念世界文化賞。東京都名誉都民顕彰。日本芸術院会員。文化功労者。

週刊新潮 2025年9月11日号掲載

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