暴露系配信者の「情報」を鵜呑みにする危うさ…アインシュタイン稲田の人生は完全に狂ってしまった

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ネット社会で情報拡散

 パスワードを氏名や生年月日から推測するという初歩的な方法で実際に乗っ取りを成功させてしまった容疑者の存在は、ネット社会に潜む危険性を如実に物語っている。稲田自身は、自分のセキュリティ管理の甘さも原因の1つだと反省を口にしたが、彼が被害者であることは動かしがたい事実であり、今回の逮捕劇によって名誉は回復された。

 しかし、その過程で稲田が受けた社会的ダメージは甚大だった。彼のアカウントから送られたとされるDMの内容はネット上で一気に拡散され、ネットニュースなどでも取り上げられ、芸人仲間からもイジリのネタにされた。疑惑が晴れるまでの長い期間、稲田は「冤罪」とも言える疑惑の渦中に立たされ続け、芸人としてのキャリアや人間としての名誉が大きく揺らいでいた。こうした経験は、たとえ最終的に潔白が証明されたとしても、本人に深い傷を残すものだろう。

 現代のネット社会では、事実確認が十分に行われないまま情報が拡散されて、疑いの目を向けられた人物の人生が容易に狂わされてしまうことがある。警察の捜査や司法の判断が下る前に、ネット上で「推定有罪」の空気が形成され、無実の人物が社会的制裁を受ける。稲田のケースはその典型例だった。

 真犯人逮捕に至らなければ、多くの人が「やはり本人の仕業だったのだろう」と信じたままだったかもしれない。ネット社会の空気が、現実の評価や仕事にまで影響を及ぼす怖さが、今回の一件で改めて突きつけられた。

 今後、同様の事例に対して「乗っ取られた」という弁明があった場合、これまで以上に慎重に受け止める必要がある。続報がないからといって嘘と決めつけるのは短絡的である。被害者は「捜査中だから話せない」といった事情で沈黙を余儀なくされる場合がある。にもかかわらず、ネット上では「黙っているのはやましい証拠」と決めつける声が出やすい。その判断がどれほど危険で不公正なものか、今回の事件が明確に示した。

 報道する側、受け取る側、そして拡散する側すべてが、自らの行動が1人の人生に直結することを強く意識しなければならない。SNS上の1つ1つの書き込みが、無実の人を犯罪者のように仕立て上げ、仕事を奪い、人格を否定することにつながる。稲田が味わった冤罪地獄は、芸能人に限らず誰もが巻き込まれる可能性があるものなのだ。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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