横尾忠則が明かす「コロナ後遺症」のリアル 「立っているのも、座っているのも、身体が言うことを聞かない」
コロナ禍で世間が騒々しかった時期は終り、ヤレヤレ、ルシアン(ロシア)ルーレットからまぬがれたかと思ったある日、突然発熱に襲われ、ヤバイと思って病院に駆けつけた所「コロナです」と言われてしまいました。でもこのまま、じっくり自宅で休んでいれば1週間もすれば治ります、と言われ、何んだ大したことないじゃないかと思った翌日、妻もコロナに罹ってしまって、入院。救急車につきそいで同乗した僕まで「あなたもコロナだから」と入院させられてしまいました。
【写真を見る】横尾忠則が苦しむ「コロナ後遺症」の症状“2つ”とは?
僕に移されたらしい妻の方が重症で、10日以上も入院することになってしまったのです。ついでに僕も妻の付録みたいに1日入院しました。妻のコロナはもしかしたら肺炎を併発する恐れがあり、年齢が年齢だけに大変なことになったと、あわてました。
僕は妻よりも軽症だったのですが、逆に軽症の患者の方が後遺症がきついというのです。妻は重症だっただけに退院後、数日の自宅療養でほぼ完治。その後はいつものように朝食を作ってくれています。妻の入院中と自宅療養中は妻に代って長女が面倒を見てくれたので助かりました。
すでにコロナに感染してから3ヶ月半近く経ちますが、僕の方は後遺症のお陰げで日常生活に負担がかかっています。よく言われている倦怠感です。倦怠感は字の如く倦(あ)きて怠(だる)くなることで、精神的なものとばかり思っていたのですが、実は肉体的なものなんです。立っているのも、座っているのも、歩くのも身体が言うことを聞かず、嫌になってしまい、絵などとても描く気になれません。
こんな状態がいつまで続くのかと医師に聞くと1ヶ月から3ヶ月、ひどくなると半年、1年、2年間も寝たままの人もいると言われました。どうも僕の現在の症状はコロナの後遺症を引きずっているらしいのです。コロナの後遺症は免疫反応の異常で、ウイルスが自分の免疫を書き替えてしまうらしく、自分の免疫が自分の自律神経を攻撃するようになり、ウイルスがいなくなった後も自分の免疫による自分への攻撃が続くといいます。なんだか自分の身体がコロナの戦場と化す、そんな嬉しくないことが起こる、いや起きているというのです。
倦怠感と同時にやや味覚音痴になっているような気もします。何を食べてもかつての記憶の中にある味覚ではないようなので、記憶の中の味を思い出しながら食べているという感じで、おのずと食欲も落ち、食べる量も減っています。このままじゃ体力が落ちる一方になると思って無理矢理食べるのですが、これもかなりきついですね。
コロナの他に、コロナに罹る少し前から急に首が痛み出して、これがまた、かなりきついのです。なぜ、首が痛くなったのかわかりませんが、「週刊新潮」に連載中のこのエッセイをまとめ書きして、数ヶ月も先きの分まで入稿したせいかも知れません。つい面白がってやったことがここまで身体的ダメージを発生させるとは思っていませんでした。
現在はコロナの特効薬は飲んでいませんので、ただただ執行猶予が明けるのを待つのみです。僕がコロナになって気づいたことなんですが、僕の周囲の人の大半がコロナ経験者であることを知って、僕は罹るのが遅かったと思ったほどです。
もう、今のコロナは風邪とそう変らないようですが、僕の後遺症はシツコイと思います。現在の楽しみといえばいつコロナが僕から去っていくか、ということです。どうも僕の後遺症は周辺の人よりやゝ重症だと思います。老齢だから、きついというようなことではないようです。そういえば10代の女生徒はコロナに罹ってから2年も寝たきりという新聞記事を読みました。ある日、朝、目が覚めた途端、ケロッと忘れたように治る、というような幻想を抱くのですがどうでしょうかね。
僕のこのエッセイを読まれた方の中にもコロナに罹った人が何人もいらっしゃるかも知れません。まだの人は気をつけて下さいということしか言えませんが、気のつけようもないですね。医師に言わせると、マスクさえつけていればコロナはほぼ防げるそうです。
プロ野球の日本ハムの新庄監督はベンチの中でも絶対マスクをはずしません。彼はコロナ経験者なので、治ったあとも絶対マスクをはずさないそうです。一説にはコロナが理由ではないという話もあるようですが……。もうマスクをつけた顔が新庄で、マスク・レスの新庄の顔は思い出せなくなりました。風呂に入る時もベッドの中もきっとマスクをつけたままかも知れません。それくらい用心深くすればコロナにはならないはずです。
僕の知人の奥様は4回コロナに罹られました。2回は結構ザラですが、4回は珍しいのではないでしょうか。でも、治った後の奥様は大変お元気です。コロナが持つエネルギーはもしかしたら一方で生命エネルギーになることもあるのかも知れません。これを書いている時点で日本ハムが断トツで首位を走っているのは新庄監督のコロナパワー以外に考えられません。




