タクシー運転手の「物知りマウンティング」がうっとうしい… 中川淳一郎が驚きの体験談を明かす

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 事情通か否かを競う「事情通マウンティング」で厄介なのが、タクシーの運転手さんです。5台に1台ぐらい、自分がいかに道に詳しいかをアピールする人と出くわします。それで最短ルートを選んでくれるのならありがたいのですが……。

 今回赴いたのは、タクシーだか他人の運転だかで何度か行った場所でした。山を登り、狭い道をクネクネ進むため、ルートを明確には覚えていません。だから運転手さん任せにしたら、それが大ゴトになりました。

 目的地までは大体、自宅から4500円かかります。そこでケチ根性を発露させ、タクシーなら1300円かかる1駅先のJR駅まで210円で乗車。「電車で距離を稼いだから3200円で行けるかな」と小市民的セコい節約を試みました。

 乗った車の運転手さんに「山田小学校(仮名)」と伝えると、「あぁ、行ったことあるよ。で、A地点とB地点と、どっちから行けばいい?」と聞かれた私は、これは安心だと思い、「Bのコンビニの所から山道へ」と返事。「あぁ、A経由より近いね」と運転手さんは車を発進させます。が、当の目標Bに対して大回りし続けるのです。

 さらに、Bに着いてからは「お客さん、この辺、見覚えありますか?」などと尋ねてくる。エッ、道に詳しいんじゃなかったの?

 この段階で怪しさを感じ、「山田小学校をナビに入れてくだされば」と言うもかたくなにナビには触れず。結局、「あぁ、まっすぐよりここを左に行った方が近いですよね」と言ったり、「やっぱ直進の方が近かったですね」とまっすぐ方面の道に戻ったりで、往復2キロは余分に走るという仕儀に。

 その後も「この辺の見覚えは?」と私に聞いてくるのです。要は、道に詳しい風を装ったマウンティングなのでした。途中、井戸端会議中の街の人に「山田小ってどこですか?」なんて尋ねていた光景は、上がり続けるメーターを冷や冷やしながら見ていた私にとって、今も忘れられません。

 このままだと迷い続けて料金が6000円に届くぞ、と思ったケチな私が「そろそろナビに入れてもらっては?」と言うと、さすがに「迷惑かけたんでメーター止めます」となりました。

 知ったかぶりはほとんどいい結果をもたらしません。

 この手の事情通マウンティングで少し恥ずかしいのが、ロシアとウクライナ戦争における日本政府と首相の発言です。基本的に「状況を注視する」「関係各国と連携する」といったあたりが声明の定番。一応はG7メンバーとして会議に参加できてもEUと米国という白人国家に主導される中、日本はさして発言権があるわけでもないのに。

 距離的に遠いウクライナが日本のことを、現金が引き出せるATM以上の存在と見るとは思えず。なれば、事態にコミットしている風で「状況を注視する」「連携する」などとカッコつけず、いっそ素直に「決まったことがあればわれわれとして判断する」でいいのでは。

 以前、私は国力が落ちた日本はG7から脱退するのも一案ではと提案しました。

 国際会議でもスマホをいじる「ぼっち」な石破首相の姿に、日本が事情通である(状況に通じている)という幻想は捨てた方がいいのではと思うばかりです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』など。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2025年9月4日号掲載

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