トランプ氏が“新興国も顔負け”の「政敵排除」 家宅捜査、FRB理事の解任、検察官の調査…投資面での米国信用度が悪化の危険性

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AIバブル崩壊の可能性に警戒感

 専門家は、多くの若年男性が現状に対する強い不満を抱き続けており、「中流階級に至る明確な道が見えない」という感覚を持つと指摘している。経済を好転させることができない独裁者はいらないということだろう。

 米国経済の減速を回避するため、トランプ氏は利下げに躍起だが、かえって逆効果になってしまうのではないかとの懸念が強まっている。FRBの信任が揺らぐことで長期金利は上昇するとの観測が広まっており、米国経済全体にとって大きなマイナスとなるというわけだ。

 頼みの綱の生成人工知能(AI)にも陰りがみえてきている。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)が8月中旬、企業の生成AIプロジェクトの95%が利益を生んでいないという分析結果を発表すると、市場では21世紀のドットコムバブル崩壊の二の舞になるのではないかとの警戒感が一気に広がった。

 経済の悪化を意識しているからだろうか、トランプ政権はこのところ、治安対策の強化で支持を取り戻そうとしているようにみえる。

トランプ氏の優先事項は来年の中間選挙

 トランプ政権は12日、治安回復を目的に首都ワシントンへ州兵を派遣した。トランプ氏はさらに、シカゴやボルティモアなどへも州兵派遣の意向を示しているが、支持率の回復につながっていない。ロイターの世論調査によれば、ワシントンへの州兵派遣に賛成する米国民は38%にとどまり、反対は48%だった。

 トランプ氏の狙いは別にあるのかもしれない。イリノイ州のプリツカー知事が、州兵派遣の最終的な目的は「来年の中間選挙を掌握すること」と指摘したとおり、トランプ氏にとって最も大事なのは来年の中間選挙における共和党の勝利だ。

 トランプ氏は共和党主導の州に対し、中間選挙で下院の多数派を守るため選挙区の区割りを見直すよう求めている。29日には共和党が主導するテキサス州で新たな選挙区の区割りが成立し、中間選挙での共和党優位がより鮮明となった。これに対し、民主党のカリフォルニア州のニューサム知事は、同党に有利な区割りを進める方針だ。

米国の民主主義の危機は目前

 だが、過半数の国民はこうした動きに反対だ。ロイターの調査では、55%が「テキサス・カリフォルニア両州で進められているゲリマンダリング(特定の政党に有利になるように選挙区を変えること)は民主主義にとって有害だ」と回答した。

 トランプ氏は民主党に有利な郵便投票などを排除する大統領令も準備している。発布されれば、民主党が主導する州との間で法廷闘争になるのは確実だ。選挙制度に対する国民の信頼低下は米国の民主主義の危機につながる。由々しき事態だと言わざるを得ない。

 トランプ氏が政敵の排除と中間選挙の勝利に固執すればするほど、米国のカントリーリスクは新興国並みに悪化してしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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