「暴力・体罰の禁止」を無視する悪循環が… なぜ高校野球の体質はいつまでも変わらないのか 

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【前後編の後編/前編からの続き】

 夏の甲子園で初戦を勝ち抜きながら、出場辞退を余儀なくされた広島代表の広陵高校。前代未聞の事態を引き起こしたのは、SNSで立て続けに拡散してしまった「知られざる不祥事」だった。21日、広陵高校は中井哲之監督(63)が退任することを発表したが、屈指の強豪校で、長きにわたって“君臨”した指揮官の光と影に迫る――。

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 前編【「先輩からシバかれてしんどいか知らんけど…」 退任発表の広陵・中井監督の素顔 「ケツバットもあった」 OBが明かす】では、OBらの証言をもとに、中井監督の知られざる素顔について報じた。

“硬軟”取り混ぜながらますます力をつけていった中井監督。ちなみに息子の惇一部長は、広陵の3年生だった2012年には主将を務めていたのだが、夏の予選では広島大会3回戦で敗退している。当時の「日刊スポーツ」(12年7月22日)では、

〈中井親子の夢散る〉

 との見出しで、

〈父・中井監督に相談せず、中井は独断で広陵進学を決めた。入学後、気持ちの中では親子の縁を切った〉

 と報じられている。県内の野球関係者によれば、

「惇一さんは卒業後、中京大へ進学し、17年春、保健体育の教諭として母校に赴任しました。以降野球部の副部長となって父をバックアップし、23年から部長に就いています」

 とのことで、名実ともに「王国」を築き上げ、今年は3年連続の夏出場を果たしたのだった。

「暴力・体罰の禁止」を無視する悪循環

 かつての部活動では“指導”という名の体罰は珍しくなかった。時代とともに世間の意識も変化し、そうした暴力へのまなざしは厳しくなったものの、今なお事案の発覚は後を絶たない。さる10日に会見した日本高野連の寶馨(たからかおる)会長によれば「年間1000件以上の不祥事が報告されている」とのことで、とりわけ強豪校ともなればその峻厳さは推して知るべしである。

 同日の会見で広陵の堀正和校長は、SNSでの学校や生徒への誹謗中傷を出場辞退の理由に挙げ、これがまたしてもネット上で「被害者面」などと批判されるに至った。ITジャーナリストの井上トシユキ氏が言う。

「最初にSNSに告発を書き込まれた時に“知らぬ存ぜぬ”を決め込んでしまったのが、広陵の大きな初動ミスです。昭和の頃であれば今回の件はもみ消されていたかもしれませんが、今や隠し通せなくなっています。昔の感覚のまま、SNSを甘く見ていたと言わざるを得ません」

 また、スポーツライターの小林信也氏も、

「夏の大会は朝日新聞とNHKの“ネガティブな報道はしない”という前提の下で続いていますが、今回はSNSがそうした“文化”を突き破ったといえます」

 としつつも、

「厳しく指導した方が甲子園に近づけることもあり、おのずと強豪校は優秀な選手を集め、高野連の掲げる『暴力・体罰の禁止』を無視するという悪循環に陥っている。大会のやり方を変えない限り、高校野球の体質は変わらないでしょう」

次ページ:堀校長に聞くと……

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