“半隠居生活”を5年続ける中川淳一郎の見栄を張らない生き方 「貯金は少し増えれば十分」

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 半隠居生活も、もうすぐ5年になります。最近「これでいいじゃないか」という満足というか諦念を抱くに至りました。例えば「貯金がせめて少し増えれば十分」という考え方です。以前は月末の給料日にガーンと増えたなら「ウヒヒ、バンバン来てるな」などと口座を見て下卑た感興に浸りましたが、最近は「あっ、先月よりン万円も増えた」なんて事態なら万々歳です。残高がある。赤字じゃない。こんなぜいたくはありません。

 もう、モーレツサラリーマンならぬモーレツフリーランスとしての働き方は限界だァ!とばかりに47歳で半隠居生活に入ったのですが、ここ5年間でできた蓄えで痛痒なしです。まぁ、もともと大金を使うような人生は送っておらず、想定内といったところですが。

 高いものは買わない人生でした。欧州車、ロレックスの腕時計、ベルサーチのスーツ、15万円の釣り竿、タワマン、ドン・ペリニヨン、ついでにエスカレーター式に大学まで上がれる私立幼稚園に通う子。完璧に無縁です。セブン-イレブンやガストでもらった景品の皿を使い、酒といえば(発泡酒や第3のビールではない方の)ビールだけ飲む。移動するという目的は達せられるので、飛行機はエコノミー上等です。

 そうした価値観で見栄を張らずに生きてきたところ、いつしか人生の終わりまでなんとかなるだろうくらいの額は手元にある。そして最近、ますますみみっちくなったのが株式投資です。購入時より1万円でも上がっていたら、将来性は考えずそこで売ってしまう。こんな感じで地味に貯金を増やしていけばいいのかな、と割り切りました。

 定年後の第二の人生で起業するゾ!なんて息巻く人もいるでしょうが、起業は20~40代の若者がするもの。仮に60代でやってもうまくいきません。だったらこうしたみみっちいカネの獲得方法でいいと思います。

 同様に諦めたのが、子どもたちに尊敬される人生です。地方都市に暮らすと多くの子どもたちと接します。私の扱われ方といったら、「同格のおっちゃん」です。

 オオクワガタをたくさん飼っているため、ある3人兄弟からは「クワガタおじちゃん」なんて呼ばれて「クワガタ見せて!」「見せるだけじゃなくて、あげるよ」「うわ~い、うれしい!」なんてやり取りが日常風景。

 小学4年生の女の子はクイズが大好きで、一緒に釣りに行くとしきりにクイズを出してくれと言ってくる。「全国の県庁所在地で一つだけひらがなの都市があります。どこでしょう?」と問うと、「そんなの分からないよー!」とキレられました。「さいたま市だよ」と言ったら「次の問題出して!」です。「奈良の大仏と鎌倉の大仏、たったのはどっちが先でしょうか?」なんて問題も出しました。

 と思えば「ドラえもんの道具で一つだけもらえるとしたら何?」と聞いた際は、私の「あらかじめ日記」こそ最強という論に納得してくれました。書いたことがすべて現実になる無双の道具です。子どもは「どこでもドア」とか言いがちですが、容赦のない「あらかじめ日記」論で納得させ、威厳を保とうとするセコい大人になりました。ちなみに大仏の問題、正解は「どちらも立っていない」です。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』など。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2025年8月14・21日号掲載

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