酷暑の万博を訪れた「関西出身の還暦コンビ」が入場前から“熱中症”の危機…人気パビリオンの大行列を目にして「ホンマに死んでまうかもしれんで」

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強烈だった太陽の塔

 どうやら東ゲートのもっとも南側から入ったようだ。友人と連絡を取るため目印になるものを探す。すると目に入ってきたのはコンビニとトイレだった。一瞬、東京近郊のアウトレットモールに来たのかと勘違いした。幼稚園児だった私が訪れた1970年の大阪万博はこうではなかったと、ふと思う。

 京都から東京に引っ越して初めての夏休み、里帰りのメインイベントは万博だった。ピカピカの金属で囲われた改札に似たゲートを通った直後、見えてきた太陽の塔に度肝を抜かれた。屋根を突き破って聳え立つ禍々しい怪物のよう構造物は、近寄ると見たこともない大きさだ。その顔は怒っているようでもあり、怒っていないようでもある。顔の両横には赤色の線が描かれ、髪にも流れる血にも思えた。

 離れて構造部のてっぺんにある金色の円形部分を観察すると、図鑑で見たアポロ宇宙船の着陸船、あるいはアポロ宇宙船と連絡を取るためのアンテナのように見えた。年末に6歳を迎える子供だったが、忌まわしい戦禍を経て、人類は宇宙へ進出する偉大なる一歩を刻み、これから進歩と調和の時代がやってくる──と直感的に理解したと思う。

 あれから55年が経ち、同じ大阪で開かれた万博に来て、まず目に入ったのはコンビニとトイレ。人類は調和を果たしつつあるのかもしれないが、進歩はしていないのではないかと不安な気持ちになる。

予約は全滅という厳しい現実

 するとしばらくして、友人が懐かしい京うちわをパタパタさせながら到着した。

「予約なあ、主なパビリオンは全滅やったわ」

 そこで自由入場のコモンズ(共同館)へ向かう。日系のパビリオンがいくつもあるが、ほとんど予約が必要だ。先着順のところには長蛇の列ができている。まだ午前中であるにもかかわらず30度を超えた中、還暦のオッサン二人がいつ入れるかわからないところに並べたものではないと諦める。大屋根リングを抜けると、アメリカやフランスといった人気のパビリオンがあり、ここにも行列ができていた。

「ざっと50人、60人ぐらい、もうちょっといるかな」

「いや、見えてる先頭のその先、建物内にも並んどるで」

 日差しを遮るものはない。こんなところで並ぶと「ホンマに死んでまうかもしれんで」と、一周して涼しくなってから最後に再訪することにした。だが、人気があるということは、常に人が並んでいて空くことがないということでもある。その程度のことに気が回らないほど、とにかく暑い。

※第2回【55年前の万博のほうが“未来を感じられた”のでは? 1970年は「月の石」に行列ができたのに、2025年は「回転ずし」に行列ができるフシギ】では、給水器の水が異常なほど不味いことや、万博に“完全な非日常”を求めているわけではない観光客の不思議な感覚などを、引き続き井上氏がレポートする──。

井上トシユキ(いのうえ・としゆき)
1964年、京都市生まれ。同志社大学文学部卒業後、会社員を経て、98年からジャーナリスト、ライター。IT、ネット、投資、科学技術、芸能など幅広い分野で各種メディアへの寄稿、出演多数。

デイリー新潮編集部

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