グアム密林に16年「元残留日本兵」2人が帰還後「会社の同僚」に それでも「ほとんど口をきかなかった」理由とは【週刊新潮が伝えた戦争】 #戦争の記憶

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帰還手当は確か1万円ほど

 伊藤さんの方はどうか。

「定年の60で退職し、今は大手町のある会社で警備員をしています。家族は妻と社会人の娘、学生の息子がおります。帰還した時、確か1万円ほど帰還手当をいただきました。その時はまだ、通貨の価値が変わったことを知らず、こんなにもらっていいのだろうか、などと喜んだものです。しかし、その金も知らぬ間になくなり、山梨から東京に出てくる時はトランク一個だけが私の持ち物だったという具合です」

 こんな2人だが、共に東京に住んでいるのに行き来はないという。

撮影所時代から「ほとんど口をきかなかった」理由

「撮影所時代からほとんど口をきかなかった」と皆川さんがこう言ったことがある。

「伊藤さんと私がもし心を許し合った親友だったなら、あれまで生き延びることはできなかったろう。われわれ2人はお互いに猜疑心とライバル意識に凝り固まって生きた。当時の感情が糸を引き、シックリいかないのだ」

 それはともかく、2人ともふだんの生活は質素で堅実そのものである。

「私は死んでいった友人のためにも贅沢な生活はできません。お茶を飲みに行ったり、酒を飲みに行ったり、その程度のことも私はやりません」(皆川さん)

「金もうけには関心がありません。欲がないのです、休みの日にはいつも体を動かしています。雪が降れば雪かき、といった具合です。遊ぶことが好きではないんですねえ」(伊藤さん)

デイリー新潮編集部

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