「夏の甲子園」期間中に部員の喫煙発覚! 39年前の“享栄事件”で起きたこと 今年の“広陵事件”との大きな違いとは!?
勝つことで償いをしようと
これに対し、大会本部は、学校側が的確に速やかな対応を行ったことから、応急措置として14日に予定されていた東海大甲府戦への出場を認めた(正式処分は18日に開催される審議委員会で決定)。ただし、大会規定により、抹消された2人の補充は認められず、東海大甲府戦はベンチ入り13人で臨むことになった。
試合当日、柴垣監督から事件のあらましを聞かされたナインたちが、大きなショックを受けたのは言うまでもない。
ふだんは強気の性格で知られる近藤自身も「負けるんじゃないっスか」と弱気になったが、「これで負けて帰るのは、あまりにも惨めだ」の思いがナインを結束させた。
この日の近藤は、自慢の速球の威力が半減し、ボール先行の苦しい投球ながら、カーブでかわし、バックの堅守にも助けられて、5回まで4安打無失点に抑える。
だが、0対0の6回、連続四球をきっかけにタイムリーで1点を先行され、「春の新湊戦と同じだ。このまま(0対1で)負けちゃうのか」と不安な気持ちに襲われた。
そんな劣勢にあって、「おい、元気出そうや」という今枝利裕主将の言葉がナインを勇気づける。
7回に喜多崇の右翼線へのタイムリー二塁打で追いつくと、8回には佐藤友昭の左前タイムリーで2対1と逆転。近藤も7回以降は無安打無失点と踏ん張り、1点差で逃げ切った。
試合後、柴垣監督は目を真っ赤にしながら、「勝つことで償いをしようと思っていました。きびきびした恥ずかしくない試合をするのがお詫びのしるしだ、と自分に言い聞かせていました。13人の選手は、動揺はあったが、よく守り、よく打ってくれた」と重圧の中で勝利を手にしたナインの健闘をたたえた。
早い段階で適切な対応ができなかったのか
牧野直隆大会委員長も「高校野球は一般的な関心も高く、選手はしっかりした自覚を持ってほしい。享栄高に14日の試合をさせた以上、勝ちつづければ、当然やってもらう」と正式処分が決まる18日の審議委員会で出場停止になる可能性がないことを示唆した(その後、同委員会で厳重注意の処分が決定)。
だが、岡林洋一(元ヤクルト)との投手戦になった3回戦の高知商戦では、1対1の8回、近藤が公式戦で初めての本塁打を許し、ベスト8入りを前に1対2で敗退。今枝主将は「本当なら試合ができただけで喜ぶべきかもしれない。よくやらせてもらえたと思います。でも、だからこそ勝ちたかったんです」とコメントしたが、近藤は立ち上がりから制球が定まらず、打線も10安打を放ちながら、好機にあと1本が出なかった。やはり、事件の影響から、ナインが対戦相手以外の目に見えない重圧のようなものとも戦っていたことが窺えた。
あれから39年、かつての享栄と同様の境遇に置かれた広陵ナインは、初戦突破後に不戦敗という形で甲子園を去ることになった。こちらは大会前に起きた不祥事が尾を引く形での出場辞退だけに、もっと早い段階で適切な対応ができなかったのかと悔いが残る。
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